訴訟でNeuralinkによるサルに行った実験の写真の存在が明らかに。連邦政府が調査を開始<米国>
PCRM〈*1〉による進行中の訴訟で、カリフォルニア大学デービス校は2022年9月、イーロン・マスク氏の脳デバイス企業Neuralinkが同大学で実施したサルの実験に関連する371枚の写真を所有していることを明らかにした。実験の写真や動画の公開を拒否しているため、PCRMは現在、同校に対し訴訟を起こしている。
大学の獣医記録によると、Neuralinkの実験者は同社の「ブレイン・マシン・インターフェース〈*2〉」に関する研究の一環として、サルの頭蓋骨に穴を開けて脳に電極を埋め込んでいた。
大学は法文書で、Neuralinkの実験中に殺されたサルの剖検〈*3〉に関連する185枚の写真を保持していることを認めている。しかし、大学側の弁護士は、一般の人々が誤解する可能性があるとして、公開すべきでないと主張している。大学はまた、Neuralinkの従業員が撮影したサルの実験に関連する186枚の写真も所有していることを認めているが、「専有物」であるため公開すべきではないと主張している。Neuralinkも訴訟の当事者として介入し、公開を阻止しようとしている。
PCRMは2022年2月、米国農務省(USDA)に対し、大学に関する苦情を申し立てた。USDAは同年後半、司法省の要請を受けて、動物福祉法違反の疑いでNeuralinkの調査を開始した。
大学が過去に公開した600ページ以上にわたる記録には、Neuralinkの実験により、サルが慢性感染症や発作、麻痺、痛みを伴う副作用に苦しんでいることが記されていた。2つの事例で、実験者はバイオグルーと呼ばれる接着剤を使用してサルの頭蓋骨の穴を埋め、その接着剤がサルの脳に浸透してしまった。あるサルは、バイオグルーの使用により脳内出血を起こし、その副作用で大量に嘔吐し、食道に穴が開いてしまった。実験に使われた8頭のサルについて、PCRMのウェブサイトNeuralinkShowAnd-Tell.org〈*4〉で詳細に語られている。
ロイター通信はNeuralinkの内部文書や20名以上の現・元社員へのインタビューを基に、同社が2018年以降、概算で280頭以上のヒツジやブタ、サルを含む約1,500頭の動物を実験で殺していたと報じた。Neuralinkの動物実験に携わった5名が社内で懸念を表明し、2名が会社を去ったことも明らかにしている。
Neuralink は現在も、カリフォルニアとテキサスの施設で実験を行っている。PCRMはマスク氏やNeuralink に対し、ヒトで容易に実施できる非侵襲的な研究を進めるよう働きかけている。
- *1Physicians Committee for Responsible Medicine(責任ある医療のための医師委員会)/米国
- *2略称BMI。脳情報を利用することで、脳(ブレイン)と機械(マシン)を直接つなぐ技術(インターフェース)のこと。(文部科学省 脳科学研究戦略推進プログラム事務局ウェブサイトより)
- *3死因や病変を追究するために死体を解剖・検査すること
- *4https://www.pcrm.org/ethical-science/animals-in-medical-research/neuralink