化粧品でも動物が犠牲に

ウサギやマウスが化粧品の実験台に

口紅の成分が口から体内に入ったり、シャンプーが目に入ったり、クリームが肌からしみこんだり、ファンデーションを塗った肌が太陽光線を浴びたりしたときに、その化粧品の成分が、私たち人間の体にどんな影響を及ぼすのか。これらを調べるために、ウサギやモルモット、マウス、ラットといった動物たちを実験台にして、化粧品の成分である化学物質の毒性試験が行なわれています。

また、薬用化粧品などの医薬部外品においては、化学物質の毒性試験だけでなく、「美白」「アンチエイジング」「育毛」などといった有効性を確認するためにもさまざまな動物実験が行なわれています。

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実験中に動かないように拘束器に入れられているウサギたち ©CFI

動物たちは、痛くても苦しくてもそこから逃げることはできません。
実験が終わっても、健康な体に戻ることなく、すべて殺されて、廃棄処分にされます。

皮膚刺激性試験(実験動物:ウサギ)

米国のFDA(米国食品医薬品局)の毒性学者だったJohn H. Draizeによって開発された毒性試験方法。毛を剃ったアルビノウサギの皮膚に化学物質を塗布し(場合によっては毛を剃ったうえで損傷を与えた皮膚に塗布し)、3日間にわたって刺激・腐食の程度を観察する。
化粧品を繰り返して使用する場合の毒性(連続刺激)を測る試験では、1日1回の塗布を繰り返し、2週間にわたって刺激・腐食の程度が観察される。


化学物質を塗られ、皮膚が真っ赤にただれているウサギ ©One Voice

眼刺激性試験(実験動物:ウサギ)

1944年、同じくJohn H. Draizeによって開発された毒性試験。「ドレイズテスト(Draize法)」と呼ばれている。アルビノウサギの片方の眼に試験物質を強制的に点眼し、結膜、角膜、虹彩の変化を観察して眼がいかに損傷していくかを調べる。実験されるウサギは眼を手足でこすらないようにするために、頭だけが出る拘束器に入れられ、最低でも3日間にわたって経過観察される。
その試験結果は研究室によってバラつきが多く、研究者内部からも信頼性がないといわれてきた。

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化学物質を点眼されたウサギは、その眼がいかに損傷していくかを観察される ©PETA

急性経口毒性試験(実験動物:ラット・マウス)

化学物質が体内に取り込まれたときの毒性を測る試験。あらかじめ絶食させておいた動物の口から化学物質を強制的に投与し、2週間にわたって観察する。化学物質による毒性反応の程度やその継続時間、死亡時の状態などについて確認が行なわれる。
なお、繰り返して摂取した場合の毒性を測る試験では、少なくとも90日間にわたって化学物質の投与が繰り返される。その段階で死亡していても生存していても、すべて解剖して検査が行なわれる。つまり、すべて殺され、廃棄処分される。

※1927年にJ.W. Trevanによって発明されたLD50という試験方法では、一定の期間内に動物の半数が死ぬ量を算出するもので、近年まで国際的なガイドライン(OECDTG401)として用いられてきましたが、1つの試験で半数が死ぬまで延々と続けられ、大量の動物が犠牲になることに非難が集まり、2002年12月にこの試験は廃止されました。

生殖発生毒性試験(実験動物:ラット・マウス・ウサギ)

化学物質の投与によって親世代の生殖機能や次世代の発生にどのような影響が出るかを調べる試験。親世代の繁殖から次世代の成熟までの多岐にわたるステージで試験が行なわれるため、多くの動物が犠牲になる。例えば出生前のステージでは、化学物質を投与した妊娠中の母体および胎児を殺して解剖し、出生後のステージでは化学物質を投与した親世代とそこから生まれた次世代をそれぞれ殺処分して解剖する。


このほか、化学物質によって起こされる皮膚のかぶれやアレルギーをみる皮膚感作性試験(モルモット・マウス)、化学物質を塗った皮膚が紫外線など太陽光線を浴びたことによって生じる刺激性を測る光毒性試験(モルモット・ウサギ)など、さまざまな毒性試験のために動物が使用されています。

世界の流れ-EUでは禁止に

©️美しさに犠牲はいらないキャンペーン委員会(更新日:2024/12/13)

欧米では、1970年代頃から「美しさのために動物を犠牲にしたくない」という消費者による化粧品の動物実験反対運動が盛んで、動物実験はしないと宣言するメーカーをたくさん生みだしてきました。そして、その声は政治をも動かしました。

  • 1993年/  欧州議会が決議 化粧品の動物実験を段階的に禁止
  • 1997年~/オランダ、ドイツ、オーストリア、イギリスなどのEU加盟国が、自国の法律にて化粧品の動物実験を禁止や廃止へ
  • 2004年/  EU域内での、化粧品の完成品の動物実験禁止
  • 2009年/  EU域内での、化粧品原料の動物実験禁止
    EU域外で動物実験がされた化粧品の完成品と原料の、EU域内での、販売(取引)禁止(一部例外あり)
  • 2013年3月11日/化粧品(完成品、原料、原料の組み合わせ)の動物実験が例外なく完全禁止となる

そして、EUに続くようにインド、メキシコ、カナダ、ノルウェー、アイスランド、ニュージーランド、台湾、グアテマラ、エクアドル、コロンビア、オーストリア、トルコ、チリなどが次々と化粧品の動物実験を禁止しました。
さらに、ブラジル、米国、アルゼンチンといった国々では、禁止にしようとする法案が出され、動物実験のなくなる日がそう遠くないと想像できます。

このように国際社会では化粧品の動物実験は廃止の方向に向かい始めています。ところが、日本ではいまだに大手をはじめとした多くの化粧品メーカーが動物実験を続け、消費者はそれを知らずに購入しているのが現状です。EUのように、多くの消費者が反対の声をあげれば、日本でも動物実験はなくせるのです。

動物実験に代わる代替法

市民の動物実験に反対する気運が高まり、動物実験に代わる試験方法が開発されるようになりました。培養細胞や人工皮膚モデルを使って化学物質の毒性を調べたり、コンピュータシミュレーションから毒性を推定するなど、生きた動物を使用しない試験方法です。

倫理面からだけではなく、科学的にも経済的にも多くの利点があります。

  • 経費と時間を大幅に削減できる
  • 動物のように体質や性格など個体差がなく、様々な環境設定ができる
  • ヒトと動物の間には種の違いという障壁があるが、ヒトの細胞を使って、直接人間の安全性を調べることもできる
  • 試験物質や有毒廃棄物が少量ですみ、環境保護や実験者の安全性向上につながる

代替法は化粧品だけでなく、医薬品や他の化学薬品にも応用が可能です。欧米諸国では代替法開発に向けた取り組みが国レベルで行われていますが、日本政府は大幅に立ち遅れています。
私たち市民が今以上に動物実験の問題に目を向け、代替法への関心と期待を高めていくことも大切です。

 ▶動物を使わない実験方法『代替法(だいたいほう)』の詳細はこちら

多くの人が望まなければ動物実験はなくなる

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動物実験を続けているメーカーは、「お客様の安全を確保するため」「より有用な製品を提供するため」「法律で要求されているから」「代替法が確立していないから」ともっともらしい理由をあげますが、すでに安全性が確認され世界中で長く使用されてきた原料は膨大な数にのぼり、それらを使用する限り、新たに動物実験をする必要はなく、法律で義務づけられているわけでもないのです。

しかし、なぜ動物実験を続けるのでしょうか?それは、まだ化粧品として使われたことのない新規性の高い成分を開発すれば、メーカーは莫大な利益を得ることができるからです。新規性の高い成分を使う場合に限っては、国も動物実験を要求しているのですが、それらのメーカーが動物実験をやめないのは、「法律で要求されているから」ではなく、「動物のいのちより会社の利益を優先させているから」に他なりません。

メーカーは、“美しさのための動物実験”に対する倫理的な批判と国際的な動物実験反対の流れを真剣に受け止め、たとえ代替法が確立されるまでの間、新規性の高い成分の開発をストップさせることになったとしても、ただちに動物実験をやめるべきなのです。

メーカーにこの決断をさせるためには、私たち消費者が動物実験を望んでいないということを積極的にメーカーに示していくことが重要です。「メーカーに動物実験しているかどうかを確認し、しているとわかったら〝やめるまで買いません〟と伝える」「動物実験していないメーカーの化粧品を買う」「そのメーカーを応援する」というように、一人ひとりがショッピングを通じてできることはたくさんあります。そして、化粧品開発のために動物実験が行われていることを、周りの人たちに知らせていくことです。そうすればメーカーも、動物実験をしていることによってイメージが悪くなり、消費者が離れていくことになれば、会社の利益にならない動物実験をすぐにでもやめざるを得なくなるからです。
化粧品の動物実験をなくせるかどうかは、私たち消費者一人ひとりの手にゆだねられているのです。

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