EUで化粧品の動物実験が禁止されるまで
EU では化粧品の動物実験が完全禁止
2013年3月11日、EUでは、化粧品の動物実験が例外なく完全に禁止になりました。EUではすでに2004年9月からは、EU域内における化粧品の完成品に対する動物実験を禁止し、2009年3月からは「化粧品の原料のための実験禁止」が追加され、さらに「EU域外で動物実験をした化粧品の完成品及び原料の域内取引(販売)の禁止」も加わりました。 しかし、販売禁止に関してはこの時点では3つの試験領域は例外とされていたのです。
[実験禁止(Testing Ban)]
- 2004年9月11日より、EU域内での、化粧品の完成品のための動物実験禁止
- 2009年3月11日より、代替法が確立されているか否かにかかわらず、EU域内での、化粧品の原料及び原料の組合せのための動物実験禁止
[販売禁止(Marketing Ban)]
- 2009年3月11日より、EU域内における、動物実験が行なわれた化粧品の完成品、原料及び原料の組合せの輸入及び販売禁止(反復投与毒性、生殖毒性、毒物動態の各試験領域を除く)
- 2013年3月11日より、代替法が確立されているか否かにかかわらず、上記3試験領域で動物実験が行なわれた化粧品の完成品、原料及び原料の組合せのEU域内における輸入及び販売禁止
禁止までの道のり
1980年代に大きくなった化粧品の動物実験反対運動は、ヨーロッパでは消費者ベースの運動にとどまらず、議会へのロビイング(陳情・要請行動)という形で発展しました。その結果、欧州議会(European Union)では、1993年6月14日、「動物実験が行われた原料を配合する化粧品のEU域内での販売を1998年1月1日以降禁止する」という化粧品指令第6次修正(93/35/EEC)を採用しました。この動きに並行するように、オランダ、ドイツ、英国、オーストリアなどのEU加盟各国では、自国の法律で化粧品の動物実験の禁止措置をとるようになりました。
なぜ「実験禁止」ではなく「販売禁止」だったのか
EU加盟各国は、この化粧品指令に基づいて国内法整備を進めていくことになるのですが、ここで重要なのは、「動物実験禁止」ではなく、「動物実験がなされた化粧品の販売禁止」だったことです。「実験禁止」の規定だったとすれば、EUの化粧品メーカーが動物実験を禁止していないEU以外の国で動物実験を行なって化粧品を開発し、その化粧品をEUで販売することが可能になってしまいます。また、同様にEU以外の国の化粧品メーカーがEU以外の国で動物実験を行って開発した化粧品をEUのなかで販売することもできてしまいます。
つまり、実質的に化粧品の動物実験をなくすためには「実験禁止」より「販売禁止」の方がより実効力のあるファクターだったのです。
たび重なる延期――業界が「自由貿易違反」と圧力
ところが、1998年から実現される予定だったEU域内での販売禁止は、実現目前の1997年には「2000年まで延期」、次の期限直線の2000年には「2002年まで延期」というように、延期決定が繰り返されました。なぜ、このような事態に見舞われてしまったのか。それは、日本をはじめ、EU内外の大手メーカーを中心にした化粧品業界が「動物実験をした化粧品が販売できなくなるのは貿易障害だ」「世界の自由貿易ルール(WTO)に違反する」と、EU政府に反対の圧力をかけたからでした。それによって、2001年には、EU内外の化粧品業界から圧力をかけられた欧州委員会(European Commission)は、「販売禁止」を反故にして「実験禁止」に差し替えようという提案をしました。つまり、「実験禁止」だけにすることによって、新規原料開発によって利益を上げようというメーカーに逃げ道を与えようとしたのです。これらの動きからも、ヨーロッパでもシェアの高い日本のメーカーが相当大きな圧力をかけたことがわかります。
自発的な動物実験廃止を!保護団体による国際キャンペーン
動物保護団体や消費者たちが待ち望んだ1998年1月1日という期日は、無念にも延期されてしまったけれど、「法律でダメならば、自発的に廃止にもっていこう」――1997年に欧州委員会から延期が発表されたのと並行して、ヨーロッパやアメリカの約50の動物保護団体が集結して(ヨーロッパ:ECEAE ※1、アメリカ:CCI C ※2)「化粧品の動物実験―それはあなたの手に委ねられている(Cosmetic Testing – it,s in your hands)」と銘打ったキャンペーンを始動させました。
「動物実験していない」という国際基準(人道的な化粧品基準;Humane Cosmetic Standard)を設け、1998年1月1日までにこの基準を採用するように化粧品メーカーに働きかけて、本来、法的に禁止になるはずの期日を、事実上の禁止状態にしていこうというものでした。実際、期日までに約100社が名を連ね、現在でも基準を満たすメーカーが増えています。
人道的な化粧品基準
- 動物実験を実施または委託しない
- その会社の製品および原料について、ある日付以降動、動物実験がなされていないということを証明できる日付を設定する
- 企業は、取引のあるすべての供給会社より、上記の基準を満たしているという明文化した証明書を定期的に得なければならない。
JAVAはこのキャンペーンに賛同していますが、この基準では、系列会社における動物実験実施の有無について問われていないため、現時点では、JAVA独自の「動物実験していない」基準を設定しています。
2009年、10年の歳月を経てEUで禁止に
政治をも巻き込んだ化粧品業界の抵抗に対して動物保護団体やEU市民の粘り強いロビー活動が続けられた結果、ようやく2003年2月27日のEU理事会(Council of European Union)において「販売禁止」と「実験禁止」の両方を盛り込んだ化粧品指令第7次修正案が承認され、同年3月11日に公布されるに至りました(2003/15/EC)(本項冒頭参照)。これによって、2009年3月11日より、EU域内で、化粧品開発のために動物実験が行なわれることはなくなりました。そして、EU域外で2009年3月11日以降に動物実験がなされた化粧品(完成品、原料、原料の組み合わせ)がEU域内で販売されることも禁止になりました。もちろん、日本のメーカーによる輸出販売についても適用されています(ただし、それは、EUに輸出しない化粧品について動物実験をしないことをメーカーに義務づけるものではありません)。
予断を許さない化粧品業界の圧力
化粧品指令第7次修正(2003/15/EC)は、「販売禁止令」のなかで例外3領域の試験については、2013年まで禁止の猶予を与えました。1993年に欧州議会が「化粧品の動物実験廃止」を掲げた決議をなして以来、実際に指令公布の日を迎えるまで幾度も延期となった経験から、EUの規制に力を注いできた動物保護団体は、2013年の例外なき禁止が実現するまでは予断を許さない、と警鐘を鳴らしています。化粧品業界が「代替法が確立していない」ということなどを理由に、さらなる延期を求めて圧力をかけてくることが予想されるからです。
過去にも、米国の大手メーカーP&Gの内部文書に、「大半の動物実験はEU外で行っているためEUの『実験禁止』には関心がない」、「『販売禁止』の延期を求めて強引なロビー活動をしてきた」、「それらのロビー活動を消費者に知られないようにしてきた」などが明記されていたことが、英国の動物保護団体によって暴かれています。また、業界を擁護するため国が圧力をかけた例として、世界最大手のロレアルをはじめ巨大な化粧品産業を擁するフランス政府が、動物実験禁止の動きを阻止するために、この指令(2003/15/EC)を不服として2003年8月、欧州裁判所(European Court of Justice)に異議申し立てを行ないました。しかし、2005年5月、フランス政府の上訴は棄却され、国と業界の企ては失敗に終わっています。
さらに、日本でも、業界団体である化粧品工業連合会が「EUには(動物実験の義務付けがある)日本の基準を尊重する措置を期待したい」 ※3と話しており、EU内外の大手メーカーが、動物実験をした化粧品をEUで販売できるように、EU当局に圧力をかけ続けているといっても過言ではないでしょう。
- ※3「化粧品に動物実験は必要?」2009年4月24日付朝日新聞朝刊
EU、世界初の『動物を犠牲にしない化粧品市場』に!
2009年3月11日から禁止となった動物実験が行われた化粧品の販売に関して、例外として許されていた一部の動物実験(反復投与毒性、生殖毒性、毒物動態)についても、2013年3月11日に「延期されることなく」全面的に禁止となりました。
この例外に関しては、2013年3月に全面的に禁止することが決まっていたものの、一方で動物実験をやめたくない化粧品業界の圧力によって、最大で10年延期されるのではないか、と懸念されていたことから、世界中の動物保護団体は「延期なき禁止」を実現させるために日夜奮闘を重ねてきました。
そして、2013年3月13日、ようやく「延期なき禁止」が正式に決定されたのです。
欧州委員会のステートメント(英文)
実験の犠牲になる動物たちに国境はない
すでにEU加盟国のなかで化粧品の動物実験が禁止され、EUに流入する化粧品についても動物実験をしてはならないという規制がかかったものの、日本をはじめとする、動物実験が禁止されていないEU以外の国々では、いまも公然と動物実験が行われているのが実情です。EUの「動物実験禁止」は画期的な決定ですが、かたや新規原料開発が生む利益にしがみつく化粧品メーカーは他国で動物実験を続け、それをEUでも販売させようと画策している状況にあるのです。
EUの決定を一つの大きなきっかけにして、米国や中国、日本をはじめとしたEU以外の国々でも「動物実験廃止」の機運を盛り上げていくことが、いま、まさに求められています。そのなかでも、経済大国として日米欧の1極を担う日本で、私たち消費者が「動物実験反対!」の声をさらに大きくしていけるかどうかが、国境を越えて動物の犠牲をなくしていけるかどうかのカギを握っています。