マイクロチップ義務付け問題

<2018年投稿・2025年更新>

なぜJAVAが犬猫へのマイクロチップ装着の「義務付け」に反対するのか Q&A

動物愛護法改正の議論のなかで、「飼い犬猫にマイクロチップを装着することを義務付ければ、迷子になっても飼い主がわかり、殺処分が減らせる」といった意見をよく耳にします。2019年の改正では、販売業者に対して販売する犬猫への装着が義務付けられ、一般飼い主に対しても努力義務となりました。
JAVAは、マイクロチップの装着には反対していませんが、それを「義務付ける」ことには反対しています。その理由をわかりやすくQ&Aでご説明します。

Q1 マイクロチップとはどういうもの?

🅰 マイクロチップ(以下、チップといいます)は、直径約1.2㎜、長さ8㎜程度の円筒形の電子標識器具です。チップごとに15桁の番号が記録されていて、専用のリーダー(読み取り器)でこの番号で読み取ることができます。この番号を、登録データを管理する組織(日本では、環境省の指定登録機関である公益社団法人日本獣医師会、動物ID管理普及推進会議(AIPO)や一般社団法人ジャパンケネルクラブ等)に照会すると、登録されているその動物の飼い主の氏名や連絡先、その動物の特徴(種類、性別、生年月日など)、装着した獣医師名や連絡先などの情報がわかる、という仕組みです。
チップは、獣医師や獣医師の指示のもとで愛玩動物看護師によって注射器のような専用の器具を使って皮下に埋め込まれます。動物の種類によって埋め込まれる場所は異なりますが、犬猫は首の背面が一般的です。

マイクロチップ(環境省のホームページより)

参考
環境省ウェブサイト「マイクロチップ情報登録制度
公益社団法人日本獣医師会ウェブサイト「マイクロチップを用いた動物の個体識別

Q2 チップを入れておけば、飼い犬猫が迷子になった時、見つかりやすくなるのでは?

🅰  たしかに迷子になって、保健所や動物管理センター、動物病院などに保護された場合、チップが入っていれば飼い主のもとに戻れる可能性は高くなります。しかし、チップは次のように万全ではなく、チップを入れていれば安心というわけではないのです。

  • すべての保健所、すべての警察署、すべての動物病院がリーダーを所有、設置しているわけではないので、収容先によってはチップを読み取る作業ができません。
  • ISO(国際標準化機構)規格外のチップを入れている場合、普及しているISO規格のリーダーでは読み取れません。
  • 犬猫が怯えて暴れていたりすると、上手くリーダーがあてられず読み取れないこともあります。また、チップが装着した首の背面から皮下を移動する可能性があるため、リーダーをあてた部分にチップがなく、読み取れない場合もあるのです。
  • ゲート式リーダーならケージに入れたまま、体全体から読み取るのでそういった問題は解決できますが、ゲート式リーダーは大きくて、高価なため、所有している施設が限られています。

表2 引取り業務を行う自治体のゲート型のリーダーの設置状況

(2017年実施「JAVA 動物行政に関するアンケート」結果より 単位:自治体)

すべての引取り施設・機関で設置している8
一部の引取り施設・機関で設置している14
殺処分を行う施設に設置して、読み落としがないようにしている7
1台も所有していない80
その他(設置しているが、施設の構造や感度の問題があり、使用できない状態にある 等)5
  • チップの故障、移動やリーダーの感度の問題が起こっているとの指摘もあります*1。英国獣医師会と英国小動物獣医師会は、チップがリーダーで検出できない最も多い原因は「チップの装着直後に体外に出てしまうこと」と報告しています*2
  • 自治体の職務怠慢により、収容した猫に対してチップを読み取る作業をしなかった例もJAVAは複数把握しています。
  • チップが読み取れても、照会してみたら何の情報も登録されていなかったり、登録されている所有者の連絡先が変更になっていて連絡がつかず、返還できなかったといったケースも発生しています。

表3 引取り業務を行う自治体でのチップ読み取りの問題発生状況

(2017年実施「JAVA 動物行政に関するアンケート」結果より 単位:票)

チップは入っていたが、情報が登録されていなかった77
登録されていた所有者の情報が古くて所有者に連絡が取れなかった66
規格の古いチップで読み取りができなかった4
チップが本来あるべき首の後の位置になく、読み取りに時間がかかった23
その他(リーダーが作動しなかった、海外で登録されたもので所有者特定が困難であった、登録されていた所有者に連絡したが連絡がとれなくなった)3
  • 2016年から、英国全土で犬へのチップ装着が義務付けられていますが、2023年時点で、迷い犬のうち、正しい情報の入ったチップを入れていたのは19%で、2021年から26%より減少していて、2016年に記録を開始して以来、最低の数字であることが報告されています*3
  • 飼い主が「うちの犬(猫)がいなくなったけれど、チップが入っているから」などと安心してしまい、捜すまでに時間をあけてしまうと、チップは上記のように決して万全ではないので、飼い主が連絡を待っている間に殺処分された、ということにもなりかねません。

Q3 犬猫を捨てたらチップによって犯人がわかるので、遺棄防止になるのでは?

🅰 残念ながら、次のような理由からその効果はあまり期待できません。

  • チップを入れるには、「自分の犬猫を動物病院に連れていく」「数千円程度の装着費用を払う」「登録手数料を払う(400~1600円程度)」といった手間や費用がかかります。そのようなことをきちんとする飼い主は、そもそも犬猫を捨てる確率は低いと言えます。
  • 自分の飼い犬猫を捨てる、不妊去勢をせず、どんどん産ませてはその子犬子猫を捨てることを繰り返す、というような無責任でどうしようもない飼い主は、義務付けをしてもチップを入れないと思われるため、捨て犬猫の犯人捜しにチップが効果を上げることはほとんど望めないでしょう。
  • 狂犬病予防法における犬の登録の実態からも義務付けとしたからといって、徹底されるわけではないのは明白です。

表4 犬の登録の実態

犬の飼育数(2023年 一般社団法人ペットフード協会調べ)約6,844,000頭
犬の登録数(厚生労働省発表 2023年度末現在) 6,054,519頭
登録率(「飼育数」を分母とした場合)88.4%
  • ペットショップでチップを入れてから売った場合でも、そういった無責任な飼い主は、自身の情報への登録変更の手続きをしなかったりして(表3 参照)、やはり遺棄防止の効果はそう変わらないと考えます。
  • 海外では、遺棄の証拠隠滅のため、チップを皮下から引き出して遺棄するという残虐なケースも発生しています。
2016年4月 ギリシャ
同国の動物保護団体Save a Greek Strayに保護された捨て犬。
首の裏側にチップを抜き取った跡があり、黒い糸で縫われていた。
Save a Greek Strayのfacebookより

Q4 少なくとも、迷子になった時に見つかりやすいという メリットはあるのだから、飼い犬猫へのチップの装着を義務付けたらいいのでは?

🅰 自分が飼っている犬や猫が迷子になった時のために、チップを入れておくことに異論はありませんが、法律や条令等で「義務付け」とすることには大きな問題があります。それは野良猫の命を脅かすことになるからです。

Q5 なぜ、チップの装着を義務付けにすると野良猫の命を脅かすことになるのか?

🅰 猫は、飼い猫であれ野良猫であれ、動物愛護法で愛護動物に規定されており、虐待すれば罰せられるわけですが、中には、「野良猫ならば殺しても構わない」と思っている人が未だに多くいて、「糞尿被害がある」「数が増えている」を理由に、野良猫を駆除しようと捕獲したり、毒殺したりといったことが後をたちません。それどころか、駆除目的という不正な猫の引取りをする自治体もいまだにあるのです。

表5 屋外にいる猫ついての苦情に対して不適切な対応をしている自治体

(2017年実施「JAVA 動物行政に関するアンケート」結果より 単位:票)

自治体に持ち込むようにアドバイスする5

表6 所有者不明の猫のうち、引取り対象としてはならない次のような猫も「引き取る」と回答した自治体

(2017年実施「JAVA 動物行政に関するアンケート」結果より 単位:票)

徘徊していた首輪付きの猫21
徘徊していた首輪なしの猫32
鳴き声がうるさいと住民が持ち込んだ猫14
数が増えていると住民が持ち込んだ猫16
ゴミをあさると住民が持ち込んだ猫14
庭に糞尿をすると住民が持ち込んだ猫15
自宅外で餌やりをしている住民が持ち込んだ猫8
住民の相談・苦情を受け行政職員が捕獲した猫1
その他(警察から依頼された猫、所有者がいないと申告された猫 等)26
  • 首輪の有無や近隣住民の判断では、飼い猫の野良猫の区別はできませんので、動物愛護法や所有権の問題をきちんと理解している自治体では、駆除・排除目的で捕獲された猫はもちろんのこと、負傷していない成猫は引き取っていません。子猫についても、自活できるくらい成長していたり、乳飲み子でも母猫がいれば引き取っていません。ところが、上記のように本来、引取り対象にすべきではない猫を「引き取る」と回答している自治体が数多くあるのが現状です。
  • 飼い猫と野良猫の区別はできず、捕獲された猫は飼い猫の可能性もあり、その場合は窃盗にあたるため、違法性が高いという理由で、当会をはじめ多くの動物愛護団体からの申し入れに従い、多くの自治体が駆除目的の引き取りを廃止してきています。また愛護動物である猫を有害獣として駆除する考え方は、現在の日本社会では許容されません。しかし、いまだに猫を苦情対応で殺処分する自治体が残る中、チップ装着が義務化されると、所有者のいない野良猫、地域猫の命がますます危険にさらされることになるのです。
  • 過去には、「飼い猫に町で交付する首輪の装着を義務付ける。猫を捕獲して、首輪がない猫は京都府で殺処分することができるようにする」という条例案が議会にかけられた京都府大江町(現 福知山市)の例もあります。なんとか事実上の廃案にできましたが。
  • チップを飼い主の判断で装着することに異論はありませんが、日本にまだ殺処分のシステムがある以上、また、駆除目的の引取りが完全になくなっていない以上、野良猫たちが殺される危険性がある義務付けには反対です。飼い主のいる動物だけが守られるのではなく、最も不幸な境遇にある動物、守ってくれる人がいない動物もきちんと保護される動物愛護法であるべきです。マイクロチップの義務付けは、不幸な動物をますます不幸にしてしまいます。

Q6 その他にも「義務付け」することによる問題はあるか?

🅰 次の2つの問題があります。

  1. 愛護団体にとって大きな負担となる
    日本の愛護団体は、個人宅で犬猫を保護しているような小規模のところが大多数を占めています。その活動費は寄付だけではまかなえず、手弁当で活動しているところがほとんどです。日々の餌代に加え、保護された動物は治療を必要とする場合が多く、医療費の負担も相当なもので、どの団体も財政はひっ迫しています。そこにチップ装着が義務付けられたなら、到底、日本のレスキュー活動、保護・里親探しの活動は立ち行かなくなってしまいます。
  2. 健康被害の報告もある
    次のようにチップ装着による犬猫への健康被害についての指摘もあります。
    ・米国獣医師会:「マイクロチップに対する副作用はまれだが、起こることがある。(略)埋め込み場所付近での脱毛、感染症、腫れ、腫瘍形成などがある」「動物がマイクロチップのために癌を発症するリスクは非常に低い」*4 発症するケースはある
    ・環境省:「埋め込みによる副作用はほとんど報告されていない」*5 副作用の報告がある
    ・英国獣医師会・英国小動物獣医師会:インプラント反応として、「血腫(皮下出血)や感染(装着部位付近の腫瘍もしくは感染が全身に広がり、病気になる)」「異物が挿入されたことによる炎症反応」*6
    ・世界小動物獣医師会:「マイクロチップを装着した場合、その反応によって腫瘍が形成されることはないと断言することはできない」*7腫瘍形成の可能性はある

Q7 JAVAも賛成している「8週齢規制」にはチップ装着が必要では?これは販売用の犬猫だけが対象だから、JAVAが懸念する問題はないのでは?

🅰 「8週齢規制」実施の課題の一つに「犬猫の生年月日の証明」があり、そのため、販売用の犬猫の8週齢を証明する目的もあってチップ装着の義務付けが2022年6月1日から施行されています。

「8週齢規制」とは、子犬子猫の心身の健康のため、8週齢(生後56~62日)までは産まれた環境から引き離したり、販売することを禁じる規定で、米国(24州・犬のみの州あり)、英国(犬のみ)、フランス、ドイツ(犬のみ)などで実施されています。日本の動物愛護法では、2021年6月から生後8週(56日)を経過しない犬猫の販売が禁止されました(天然記念物指定犬を除く)。

JAVAは8週齢規制には賛成していますが、ただ、そのためにチップ装着を義務付けることにも次のように疑問を持っています。

  • 義務付けても悪質な業者はチップを入れなかったり、嘘の生年月日を登録する可能性があります。チップ装着を義務付けても正しい生年月日を証明できるとは限りません。事実、2023年11月に環境省が実施したペットオークションとブリーダーへの一斉調査の結果、全国のペットオークションで取引された多くの犬や猫の生年月日が改ざんされている疑いが判明しています。*8
  • 8週齢規制が2000年頃から実施されているフランスは、飼い犬猫にチップもしくは入れ墨を入れることが義務付けされていて生年月日も登録されていますが、飼い主を見つけることが目的であって、8週齢規制のために義務付けたのではありません。8週齢かどうか疑わしい犬猫が販売されていた場合、週齢の最終的な判断は、警察から依頼を受けた獣医師の診断で行います。
  • 米国では、危険と判断された犬など特別な場合を除いて飼い犬猫にチップ装着を義務付けている州はありません。24の州で8週齢規制がすでに実施されていますが、販売される犬や猫にもチップ装着を義務付けてはいません。他の州でも義務付けていません(郡や市町レベルで義務付けているところはいくつかあります)。
  • 犬の8週齢規制が1999年からある英国ですが、犬へのチップ装着が国全域で義務付けられたのは2016年4月からであり、英国でも8週齢の判断はチップの登録情報に頼っていません。獣医師の判断や書面等で行っています。
  • つまり、これらの国々はチップに頼らず8週齢規制を長年実施しているわけであり、日本でも可能といえます。

チップを入れたほうが出生から販売に至るまでの履歴が正確に把握できるかもしれません。しかし、最初は「義務付けするのは販売された犬猫に限る」というものであっても、これが将来、「すべての飼い犬猫を対象にする」と対象が拡大される可能性は、環境省や日本獣医師会などが飼い犬猫全体へのチップの装着を強く推し進めていることからも、2019年の法改正で一般飼い主に対しても努力義務とされたことからも十分に予測できます。Q5で述べたような義務付けによって野良猫たちの命が危険にさらされる可能性がある以上、チップを用いない8週齢規制に留めるべきです。

まとめ

自分の犬や猫が迷子になった時のことを考え、「できる限りの対策をとっておきたい」とチップを入れる飼い主の気持ちはもちろんわかります。また、震災などで飼い主のもとに帰れない犬猫を見て、「チップを入れていたら帰れたかも」とチップの普及を望む気持ちもわかります。ですので、そのようなマイクロチップ本来の使い方なら、普及させることにJAVAは反対ではありません。
しかし、ご説明したようにチップは万能ではないので、犬猫が逃げてもチップを入れているから必ず見つかると安心していることはできません。日本の殺処分システムがなくならない限り、チップを確認することができなければ、「チップがない=所有者がいない」とみなし、即座に処分対象となってしまう恐れがあります。つまり、チップの義務付けには、迷い犬猫や野良猫が命の危険にさらされる可能性があるのです。そのため、JAVAは法律や条令等でマイクロチップ装着を「義務付ける」ことには反対をしています。

  1. *12017年実施「JAVA 動物行政に関するアンケート」結果<表3>
    米国獣医師会ウェブサイト「Microchipping FAQ
  2. *2英国獣医師会・英国小動物獣医師会「Compulsory Microchipping of Dogs Regulations in the UK
  3. *3Battersea Dogs & Cats Homeウェブサイト「Compulsory microchipping – how effective has it been?
  4. *4米国獣医師会ウェブサイト「Microchipping FAQ
  5. *5環境省発行資料「マイクロチップによる動物の個体識別の概要」(2005年3月)
  6. *6英国獣医師会・英国小動物獣医師会「Compulsory Microchipping of Dogs Regulations in the UK
  7. *7世界小動物獣医師会発行資料「Microchip Safety and Efficacy
  8. *8環境省報道発表資料「ペットオークション・ブリーダーへの一斉調査結果について
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