茨城県が一部の改善を公表
一部の改善の報告が県のHPに掲載される
2024年6月上旬、県のウェブサイトの中の畜産センターのページに、「畜産センターのアニマルウェルフェアに関する取り組み状況」と題した資料が掲載されました。
そこには、昨年8月に実施された外部有識者による調査結果や、指摘を受けていくつかの改善を行ったことが記されています。ただ、この資料の内容からは、次のように改善はまだまだ不十分であることがわかります。
有識者の調査結果:「飼養家畜について対人反応は良好」について
この調査では部外者である外部有識者に対する牛の反応を見ています。部外者への牛の反応を見ることも、日常的に牛がどのように扱われているかの指標にはなりますが、それだけでは十分ではありません。現場の従業員に対する牛の反応を見ることも不可欠です。
情報提供をしてくれた元職員の方の話では、特に牛を乱暴に扱っていた人物を見かけると、牛たちは後ずさりするなどの反応をしていたそうです。また、暴力的扱いに牛が怯えて右往左往して溝に足を落としたり、慌てて走って牛が足を滑らしたりすることもあったそうです。
ですので、従業員らが実際にどのように牛を扱っているのかについても調査すること、さらに、外部有識者がいる場で従業員が牛に暴力をふるうことは考えられませんので、抜き打ちで調査することが必要です。
従業員に対する牛の反応、従業員が実際にどのように牛を扱っているか、この2点の調査が抜けた結果を見て、暴力行為、虐待的扱いがなくなったと断言することはできません。 また、虐待行為は外部の目がないところで行われるのが常であることから、監視カメラを設置するなど、できる限り虐待行為が行われにくくさせる体制も必要です。
改善項目①:乳牛舎におけるフリーストールベッドの安楽性確保
こまめに牛床を掘り起こして、カチカチにならないようにする改善は評価できます。一時の改善ではなく、牛が蹄で容易に掘れる柔らかさを維持することが今後の課題でしょう。また、県の資料に出ている写真でもわかるようにベッド(前方の上段部分)の長さが牛の体長に比べて短いため、体を伸ばして横臥できない状態には変わりがありません。ベッドのサイズを大きくすることが当面できないのであれば、せめて屋内施設と屋外施設を牛が自由に行き来できる飼育方法に変更することが必要です。
改善項目②:肉用牛舎糞尿溝をグレーチングにより全面被覆
隙間をなくしたことで安全性は向上しましたが、これだけではこの金属製のグレーチング(金属製のスノコ)の上に牛が横臥することになる状況に変わりはありません。グレーチングの上に横臥する苦痛・不快さから解放されるよう、グレーチングの上にゴムマットなどを敷いて少しでも体への痛みや負担を減らす対応と併せて、外部有識者からも提案があった屋内施設と屋外施設を牛が自由に行き来できる方法に変更することが必要です。そして、ゴムマットの上に糞尿が溜まることになるため、こまめな排出・清掃も不可欠です。
改善項目③:パドックへの日よけ設置
何も設置しないよりはマシですが、県の資料に出ている写真から設置されている日よけは農作物に使われる寒冷紗で、日光を通してしまっていることがわかります。安価なもので済ませたいのでしょうけれど、寒冷紗は牛の暑熱対策としては不十分です。
このセンターでは、写真の供卵牛舎の運動場以外でも寒冷紗を使用していましたが、元職員の方によると、猛暑時の寒冷紗の下の気温は36~38度にも達していたそうです。さらにあちこち裂けて穴が開いていてボロボロだったとも言っています。
また、畜産センターの牛舎ではミストや冷風装置などの冷却設備は使用されておらず、換気扇のみだったそうです。しかも、猛暑の時期であっても、いつも仕事終わりに換気扇を切っていて、職員は「電気代がかかる」と言っていたそうです。
ミストは発する水分によって床が濡れてしまったり、かえって湿度があがってしまうことから、調査をした外部有識者は「ドライフォグ」という設備の設置を勧めています。
このセンターにおいては、供卵牛は屋内ではつなぎ飼育です。屋内施設と屋外施設を牛が自由に行き来できる飼育方法に変更できないのであれば、放飼の時間は必須ですので、冷却設備のある運動場(屋内パドックのようなもの)の設置が必要です。
地球温暖化でこれからますます暑くなることが予測されます。牛を飼い続けるなら安価な寒冷紗ではなく暑熱対策にしっかり設備投資すべきです。
改善項目④:鼻環の固定
畜産センターでは、すべての供卵牛には鼻環が付けられており、移動させる時に引っ張るなどするのに使われています。鼻環は鼻という最も敏感な部分に輪を装着し痛みで牛を制御するために使用されるもので、日本では馴染みのある光景かもしれませんが、EU、アメリカ、オーストラリア、アルゼンチン、ニュージーランド、ウルグアイへの輸出向けと畜場では鼻環による牽引は容認されておらず、前時代的で暴力的な道具なのです。輸出向けと畜場では、頭絡(口から頭部にかけて装着するハーネスのようなもの)を用いて牛を移動させています。また、鼻環の装着を止めている生産者も出てきているようです。
鼻環の固定については、JAVAたちは要望していません。固定することによる事故の防止ではなく、アニマルウェルフェアの観点からは、鼻環ははずすべきです。
◎その他、自主的に改善した点
・子牛のストレスを低減させるため、鎮痛剤と除角ペーストにより除角を行っています。
鎮痛剤だけでも使用されるようになったのは前進ですが、JAVAたちは「摘芽などの角の除去の時期について、個体ごとに動物福祉の専門家に相談したうえで決定し、除去前には鎮静剤、局所麻酔剤を投与し、除去後には疼痛コントロールできる薬剤を投与すること」を求めており、十分ではありません。本来であれば、除角をしなくても済む(牛同士の突き合いを防げる、作業者の安全が確保できる)環境整備と飼養管理への転換をすべきです。
・搾乳や削蹄などの誘導の際は、棒などの道具を使わず、声かけと手による誘導を行っています。
畜産センターで行っていた、叩く、突くといった目的での竹棒や掃除道具の使用は論外ですが、同じ道具でも旗やパドルを使用するという福祉的な方法もあります。旗やパドルで牛を叩いたり突いたりするのではなく、それらを牛の後方で動かすことで牛を穏やかに移動させるという方法もあるのです。
また、声かけといっても大きな声だと牛は怯えてしまいます。手による誘導というのもどのようなものなのかイメージできません。素手でも叩いたり、殴るなどすれば虐待です。手で移動方向を指さしても牛は移動してくれません。県の資料の説明だけではどのような誘導を行っているのか不明であり、県が牛の適切な誘導方法についての知識を持っているのかについても疑問を感じます。
・牛舎のパドックは、降雨後のぬかるみ防止のため、山砂を中央に寄せ築山を設置したり、山砂の投入頻度を増やすことで水はけの良い状態を保っています。
JAVAたちが指摘していた問題であり、改善は評価できます。良好な状態の維持をこれからもずっとできるかが鍵と言えます。それには、糞出しを定期的に実施し、排水が適切に行われるよう底に小砂利を敷き詰めたり、暗渠を設置するなどしないと、寒季にはまた泥濘化してしまうことになります。
アニマルウェルフェアへの対応強化(令和6年度~)
<取組内容>
これまで畜産センターでは、(公社)畜産技術協会や国のアニマルウェルフェアに関する指針に基づき、適切な飼養管理体制に努めてまいりましたが、令和6年度から「アニマルウェルフェア推進チーム」を設置し、畜産センターとしてさらに取組を推進してまいります。
- (1)外部専門家による調査・確認
- これは今後も続けるべきですが、年1回では不十分です。たとえば、運動場の泥濘化は気温の低い時期にだけ発生しますので、昨年8月の調査時には確認できなかったでしょう。月1回、最低でも季節ごとの調査は必要です。
- (2)指針のチェックシートに基づく自主チェックの実施
- (3)畜産センター各所の取組状況の確認と課題の抽出
- これらは、県が公表した資料だけでは、どのような項目をチェックしているのか等、詳細がわかりません。
- (4)職員を対象とした勉強会の開催
- (5)アニマルウェルフェアに係る情報の収集
- JAVAたちは月に1度の職員たち対象の勉強会開催を要望していましたので、(4)は、前進と言えます。不定期や年1回などでは不十分であるため、月に1度は行うべきです。
「アニマルウェルフェア担当職員を設置してください」という要望もしており、冒頭の「アニマルウェルフェア推進チーム」の設置がその役割を担えるのか、このチームの役割等の確認をしたいと考えています。
- JAVAたちは月に1度の職員たち対象の勉強会開催を要望していましたので、(4)は、前進と言えます。不定期や年1回などでは不十分であるため、月に1度は行うべきです。
多くの問題点について、現状がまったく不明
畜産センターがウェブサイトに掲載した資料で「改善した」と報告したことは以上です。
JAVAたちが要望書で求めている下記のことについては、資料では一切触れられておらず、改善されたのかどうかも不明です。
- 供卵牛舎の運動場に、運動場に収容される全頭数が避難できる、十分な広さのある屋根を設置すること。
- 屋外のコンクリート床の運動場(通称スーパーハッチ)に、短時間牛を運動させる以外の目的で、牛を収容しないこと。
- 牛を20 分以上暴れさせるような胃液採取方法を改めるために、胃液採取に熟練した者から、使用する器具や実施方法が適切かどうかについてアドバイスを求めること(参考までに、牛に負担が少ないと考えられる胃液採取器の資料を添付)。
- センター内での牛の殺処分を、消毒薬の血管投与という方法で行うのをやめること。適切な鎮静剤・麻酔剤・致死剤を用い、瞬時に意識を喪失させ、その意識喪失状態を死亡するまで維持できる殺処分方法に切り替えること。
- 常備されている電気スタンガンを撤去し、その使用を禁止すること。
- 動物実験計画の審査について、委員会の活動を実体のあるものにすること。例えば、実験終了後に実験内容を報告書に書かせても意味はなく、実験計画書に実験の手順全てを書かせるよう計画書の様式を変更し、手順一つ一つについて動物が受ける苦痛を最小限のものとするような審査を行うこと。その際、実験手技の熟練度を把握したうえで審査すること等。
画像出典:茨城県のウェブサイト「畜産センターのアニマルウェルフェアに関する取り組み状況」より