第三者認証制度は実験動物を救えない
「第三者認証制度は動物を救えない」JAVAが警鐘
WC6フォローアップシンポジウム「3Rsに基づく動物実験の規制と第三者認証」
参加報告
2008年2月23日(土)、日本学術会議と日本動物実験代替法学会の共催で、動物実験に関するシンポジウムが東京・六本木ヒルズアカデミーヒルズにて行われました。
第6回国際動物実験代替法会議(6th World Congress on Alternatives & Animal Use in the Life Sciences: WC6)において「科学者と市民の対話の機会が十分でなかった」等の反省から企画されたこのシンポジウムでは、代替法にかかわる関係各省庁からの報告に加え、動物実験現場の研究者からの報告、そして現在導入が進められている動物実験施設に対する「第三者認証評価」について当事者団体からの報告がなされました。
シンポジウム後半には動物愛護団体によるパネルディスカッションが開かれ、JAVAは「第三者認証制度は動物を救えるか」と題した講演を行ない、「現在進められている第三者認証制度は動物実験廃止に逆行するものである」として警鐘を鳴らしました。
第三者認証は動物実験を救えるか ~JAVAの講演から~
シンポジウムに出る理由
当初JAVAでは、このシンポジウムにパネラーとして参加するべきかどうか、慎重に考えました。なぜなら、今回のテーマである第三者認証制度、とりわけ製薬工業協会の加盟企業に認証を与えようというヒューマンサイエンス財団の認証制度はすでに内容がほぼ決定しているだろうと思いますが、今までに5回ほど行われたという準備委員会からは、当会に対して意見を求められることはありませんでした。この制度が始まる直前の段階になって私たちが意見を述べても、それが反映されることはまずないと言える状況にあったからです。それにも関わらず、なぜこのようなシンポジウムが開かれることになったのか?製薬業界の第三者認証システムを、動物実験に不信感を抱く人々からも反発されないようにするために、「シンポジウムで動物保護団体から意見を聞きました」という形をつくるために企画されたのではないか、という見方もできました。
しかし、たとえJAVAが利用されるだけであったとしても、私たちは、動物愛護を標榜する立場として、動物の側に立ち、私たちの考えを皆さんにきちんとお伝えし、この先の制度の改善に役立てていかなければならない。そういう使命をもってこのシンポジウムに臨んでいることを、はじめに申し上げておきたいと思います。
動物実験に対するスタンス
国民の動物愛護意識が高まった結果、2005年改正の動物愛護法には、従来からあったリファインメントに加え、リダクションとリプレイスメント、つまり3Rの理念がすべて取り込まれました。これによって、動物愛護の観点からの代替法の推進発展の責務が日本の研究界全体に課せられたわけです。
しかし残念ながら、日本の研究界では動物愛護をベースにした代替法の考え方を認めず、逆に「動物実験の適正化」というフレーズを使って、動物愛護の波を封じ込めようという方向に流れています。
第三者認証制度をどう評価するか
したがって、今回のシンポジウムのテーマである第三者認証制度についても、その良し悪しは、動物実験を削減し廃止につなげられるという、動物愛護の観点に立脚した制度であるかどうかで判断すべきであり、動物実験を守るための「隠れ蓑」としての制度であるならば、私たちJAVAは容認することはできません。
欧米の第三者認証制度を検証する
海外における動物実験の規制は、EU諸国などのように、行政による査察が義務付けられているタイプ、そして、AAALACインターナショナル(国際実験動物管理公認協会;http://www.aaalac.org/japanese/index.jp.cfm)のような民間機関が実験施設からの申請を受けて、つまり任意で評価を行なうタイプの2つがあります。
現在日本の製薬企業などに対して導入が検討されているのは、民間による第三者認証制度です。
この制度では、動物のケージの大きさや温度や湿度の調節、水や餌をあげる頻度、実験動物の傷病の治療など動物実験委員会の機能を評価委員が調査し、基準をクリアしていれば、施設に認証が与えられる、というものです。どんな目的の、どんな内容の動物実験を行っているのかといった動物実験の計画書自体の審査や却下はなされません。
(1)アメリカにおける問題点
アメリカの動物保護団体からは、自国の第三者認証制度について、このような意見が寄せられました。
- 動物実験業界の人で運営されている。
- 研究者の隠れ蓑である
- 基準が非常に緩い。
- 事実上、自己認証制度である。
- 認証を失うことはほとんどない。
- AAALACは事前に予告してから調査している。
実験動物の数について、USDA(農務省)の統計データはほぼ横ばい状態です(マウスとラットは統計対象外)。また、2004年までは、殺される実験動物の総数はだいたい2500万と言われていたのですが、科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」2004年8月号に「遺伝子導入マウスの数は1億匹」との衝撃的な記事が掲載されたことにより、新たに1億匹が算入されています。この数年前からこの数に近い遺伝子導入マウスが使用されていた可能性があります。
結局、第三者認証があるからといって数が減っているわけではない、それどころか遺伝子導入動物というあらたな犠牲が大量に生み出されていることがわかります。
同じく第三者認証制度のあるカナダでも、この近年の実験動物使用数は横ばいあるいは増加傾向にあるとも言えます。
(2)イギリスにおける問題点
世界中で最も動物愛護意識が進んでいるといわれ、動物実験を行う個人や施設だけでなく、それぞれの実験計画も政府(内務省)の審査を受けなければならないという厳しい制度のイギリスの現状はどうでしょうか。
● ケンブリッジ大学のマーモセットの実験
ケンブリッジ大学の神経科学霊長類研究所において2000年から2001年にかけて行われたマーモセット(小さいサル)を使った脳の損傷を調べる実験で、審査段階でマーモセットが受ける苦痛を「中程度」と判断した内務省はライセンスを発行。ところが実際は、マーモセットに発作を起こさせるために頭蓋骨の一部を切断するという「相当な苦痛」だったことが、同国の動物保護団体BUAVの調査で明らかになりました。BUAVは「不当なライセンスを与えた」として政府を提訴、2007年7月には、ロンドンの高等法院がBUAVの主張を認める判決を出しています。
実験計画の審査される制度ですら、実際の実験内容を精査するのは極めて難しく、その結果「苦痛の大きい実験」ですら、許可され、実施されてしまうことがわかります。
● イギリスの動物保護団体の意見
- 評価システムは使用数削減のためにまったく役立っていない。
- 動物福祉を提言するはずの諮問機関(APC)が、政府の計画に反する勧告を出すと無視されることが多く、事実上機能していない。
- 政府による動物愛護の目標に向けたアプローチはまったくない。
- システムを厳しくして、ライセンス申請の許可を少なくしようという考えもない。
- 英国は「動物実験規制が世界で最も厳しい」とよく言われるが、「厳しい」と「人道的」とは別だ。
● イギリスの統計
イギリスでも実験動物の使用数は増えています。
つまり、動物実験に対する社会の監視の目が最も厳しいイギリスの、より厳しい第三者認証制度でさえ、動物実験を減らすことができない。
この現状から考えても、動物愛護意識が遅れている日本で第三者認証制度が導入されても、動物実験の削減にはつながらないことがお分かりいただけたと思います。
しかも、日本が導入を検討しているのはイギリスより遥かに甘い認証制度なのですから、動物実験廃止への足掛かりには到底なりえません。
なぜ研究者は第三者認証制度を導入したいのか
(1)「抗議のレベルを弱めたい」
1995年に日本で行われた日本実験動物学会での、イギリス実験擁護協会理事マーク・マットフィールド氏による講演内容です:
「イギリス実験擁護協会は、動物実験廃絶を唱える人々から動物実験を防御する組織であります。イギリスでは、研究者は政府が出している3つのライセンスを持たなければいけないと言われております。最も重要なのは、プロジェクトに対して与えられるライセンスです。これは、非常に厳しい制度のように思われるかもしれませんが、 このシステムによって実験が中止になったという例はありません。システムは、研究を中止させるためではなく、人道的に倫理的に実験が行われていることを”保障する”というのがその目的です。(動物実験を批判する)一般の人たちの声に最初から耳を傾けるようにしていれば、抗議のレベルを逆に弱めることができるでしょう。一般国民は無知であります。動物実験に関しては、特に知識はないのです。われわれ科学者、専門家の役割というのは、一般の人たちに正しい情報を与えてやるということです。倫理的な問題が適切に、そして賢明に対処されていることを、大衆に示してやることです」
つまり、「厳しい制度であるように見えても心配は要らない。規制のシステムでは実験は止められないのだから。制度を設けるのは、実験を中止させる為でなく、動物実験反対の声を弱め、実験を滞りなく行えるようにする為。情報は全て公開しなさい。知識のない市民は、情報を与えてやることで、改善されたと思い込み、安心する。この制度の目的は、実験を保障することである」と日本の研究者たちに語ったのです。
この講演から13年経った今、日本でもこれを具体化しようとしているのが、現在、検討されている第三者認証制度なのです。
トリックにだまされないで
「動物実験はなくして欲しい」と願う市民の皆さんが、第三者認証制度のことをお聞きになったら、「査察」をうけ「認証」されたという規制のシステムは、いかにも進歩的に映るかもしれません。「わが社は、わが大学は~の認証を受けています」「動物に優しい機関です」という宣伝文句を聞いたなら、「認証を受けているならここの研究機関は大丈夫ね」というイメージを持たれることになるでしょう。
しかしながら現実はいま述べた通りです。先ほどのイギリス実験擁護協会理事が言う「無知である一般国民」とは、このからくりを理解できない国民をさしているのだということ、そして、第三者認証制度は動物実験に対する抗議のレベルを弱める役割を果たす、そのために導入されるものなのだ、ということ、これをぜひ理解してください。
(2)学術会議「根強い反対運動」への対抗策
日本の研究界の中枢組織であり本日のシンポジウムの主催者である日本学術会議は、2006年に策定した動物実験に関するガイドラインに先駆けて「動物実験に対する社会的理解を促進するために」と題した提言書を2004年に出していますが、それには次のような記述があります。
動物実験に対する反対運動は根強い。(中略)動物を用いた研究が適正に、かつ支障なく実施されるためには、研究の意義と実施状況が広く社会に認識、理解され、動物実験に関する社会的合意が形成されることが必要。
動物実験に対する社会的理解をいっそう促進するため、次の二点を提言する
- 統一ガイドラインの制定
- 統一ガイドラインの基準が満たされていることを第三者の立場から評価・認証する機構の設置
つまり、現在の日本の研究界も、第三者から「認証」という「お墨付き」をもらえれば、世論の抗議を受けずに堂々と動物実験ができる、と考えているのです。
このようなことから、私たちJAVAは、現在日本で導入されようとしている第三者認証制度が動物実験の削減につながるものではなく、逆に動物実験の廃止を妨げることになる、ということを警告いたします。
人道的な研究が目指すところはどこか
「科学における最も偉大な業績は、常に最も人道的である」と述べたのは、3Rを提唱した研究者ラッセルとバーチでした。
何が人道的であるかといった問題、人間性という基準は、いつの時代でも、根本的な問いかけであり続けています。しかし明確なことは、「人間性という基準」は時代と共に変化し、進歩するということです。例えば150年ほど前、動物実験が行なわれるようになった時代には、動物を痛みも苦しみも感じないモノとしてしかとらえられていませんでした。だからこそ命ある動物を切り刻むという残酷な行為が平然と行なわれもしたのです。しかし、現在、動物も人間と同じく痛みや苦しみを感じ、人間と同じくストレスにさいなまれる存在であることを否定する人はいないでしょう。
動物実験に携わる研究者の皆さん一人一人が、命あるものを使い捨ての道具として利用しているという行為の重さをきちんと認識していれば、動物実験をやり続けるため、守るためにではなく、動物実験をなくすために全力を注がれるはずです。
(JAVA NEWS NO.81より)