日本動物実験代替法学会 第25回大会報告

ヒト由来の生物資源を使う研究に期待

日本動物実験代替法学会第25回大会
2012年12月7日(金)~9日(日)/慶應義塾大学薬学部 芝共立キャンパス(東京都港区)

201212代替法学会大会

 

2012年の大会は、日本動物実験代替法学会創立25周年を迎え、記念シンポジウムも行われた。
大会テーマは「動物実験代替法のサイエンス〜機構に基づいた予測〜」。杉山雄一大会長は、36年にわたり東京大学にて薬物動態予測の研究を行ってきた。薬物動態予測はin vitro(試験管の中)からin vivo
(生体内)での薬物の影響を予測するものでもあり、自身の研究が3RsのReplacement(置換)、 Reduction(削減) 、Refinement(苦痛軽減)のうちの置換と削減にも関係するとしてこのテーマを決めたそうだ。
置換と削減に重きが置かれる、ということに注目して聴講した。

数理モデルからヒトへの影響を直接予測する

杉山大会長は、2011年の日本製薬工業協会の『メディアフォーラム』において次のような発言をしていた。「実はヒトでの薬物動態を動物実験から予測するのは容易でありません。BA(薬の吸収性の指標)という最も大事なパラメータ(媒介変数、設定値)でさえ、ヒトと動物との相関性は高くありません。」

そして、今回の代替法学会においては「動物実験代替法分野におけるモデリング&シミュレーションの重要性」と題した講演を行い、「関連する分子実態が明らかとなり、種々のin vitro実験系を用いて、分子の機能を定量的に求めることが可能となっている。In vitro実験から得た情報を元に全身での薬物動態・薬効を予測できるような数理モデルを構築することが出来れば、個々のパラメータが最終的に薬効・副作用への影響について科学的意味づけを持たせられる。In vitroから得られた予測値が、ヒトin vivoの特性値と近いことを示すより多くのデータを蓄積することが必要である。」「低分子医薬品においては、化学構造を基にしたin sillico(コンピュータ内)予測のみで、動態特性(吸収性、標的指向性、適切な代謝・排泄能力)のすぐれた化合物創製が10年以内にできるようになると推定している。」と述べた。

新薬が生み出される確率は3万分の1と言われる。開発段階でたくさんの動物の命を奪っているわけだが、もっと早い段階で薬物動態を予測出来れば、犠牲がなくなることも予想される。杉山氏が言う数理モデルから導きだす薬物動態には、大いに期待するところだ。

創薬におけるin vitro評価法

「代替法を指向した創薬を加速化する医薬品in vitro評価法の最前線」というシンポジウムでは、5つの講演が行われた。薬物動態予測、胎児への毒性を調べる胎盤利用、ヒト不死化細胞利用、抗菌薬における薬物動態学と薬力学を組み合わせた解析などが発表された。東京大学大学院薬学系研究科の前田和哉氏は、「動物実験の結果からヒトの予測をする方法があるが、動物における代謝や輸送特性は必ずしもヒトと一致しない。ヒト由来の組織サンプルが入手可能になったことや、ヒト由来不死化細胞の構築が進んでいることから、ヒトin vitro実験の結果だけから、ヒトin vivo薬物動態を直接予測することも可能になりつつある」と述べた。

より生体に近い三次元生体組織モデルの構築

大阪大学大学院の明石満氏は「細胞積層法に基づく新しい生体組織モデルの創製」について発表した。細胞単体で生体の薬剤応答評価は困難で、ヒト組織と同等の評価が出来る三次元生体組織が必要だとのこと。細胞の種類や配置を制御して積層化する『細胞積層法』それを改良した『細胞集積法』により、毛細血管・リンパ管様ネットワークを有するモデル構築が可能であることを見出し、あらゆる人体部位のモデル構築に取り組んでいるそうだ。

三次元モデルについては他の講演でも聴かれ、iPS/ES細胞から血管ネットワークを有するヒト肝臓組織の作製が実現化されるようだ。

医科学の原点回帰を期待する

動物実験は「人に試せないもの=人の代替」として動物を使い、犠牲にしてきた。しかし、手間のかかる飼育や莫大な費用、そして動物実験反対運動の広がりといった理由から、手軽で安価に実験出来る動物由来生物材料の利用が増加したと思われる。さらに、人と動物には種差があり、動物実験には限界があることに気づいていた研究者たちは、ヒト由来の細胞や三次元モデルの開発を行い、新薬候補化合物を初期段階で人に投与するマイクロドース試験なども考えるに至ったのではないだろうか。

動物に身代わりを強いるのではなく、人のことは人で調べる、という非常に理にかなった方向を微かに感じた大会だった。動物in vivoの結果と照らし合わせるような研究ではなく、ヒトin vivoの結果を導き出す研究を目指してほしい。

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