カネボウ美白化粧品による白斑事故 動物実験は残酷で、無意味だった
皮膚がまだらに白くなる「白斑」の症状を引き起こすとして、2013年7月4日、カネボウ化粧品が美白化粧品を自主回収すると発表しました。被害者の数は15,000人以上、発表から4カ月が過ぎたいまもその数は増え続けているといいます。原因とみなされている美白有効成分「ロドデノール」の安全性や効能効果を調べるために、おびただしい数の動物たちが苦しめられ、殺されていきました。
安全性試験で1,000匹が殺された
今回問題となっている美白有効成分「ロドデノール」とそれを配合する一連の製品について、カネボウ化粧品株式会社(以下、カネボウ)は2006年夏に、厚生労働省所管の独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に対して承認申請を行いました。「美白」という効果をうたえる化粧品は、薬事法では「化粧品」ではなく「医薬部外品(いわゆる「薬用化粧品」)」に分類され、新しい原料を配合する場合には動物実験を行うことが義務付けられているからです。PMDAのウェブサイトに掲載されているカネボウの申請資料から、安全性試験だけで、胎児を含め約1,000匹の動物が殺されたことがわかります(下の表1及び表2参照)。この数はあくまで申請のために使われた数で、その前の開発段階から行われたものを含めると、犠牲となった動物の数はこの数倍に上ると考えられます。
カネボウのロドデノールのために泣き叫び、のたうちまわった動物たち
「化粧品の動物実験」というと、薬物を注入され目をつぶされてしまうウサギの姿を想像する人が多いと思います。でも実際はそれだけではありません。申請資料には、口から強制的に大量の薬物を投与されたラットが、よろめき、うずくまり、横たわり、よだれや涙を流して、苦みながら死んでいった様子がまざまざと記載されています。胎児への影響を調べるために、妊娠しているラットやウサギは、お腹を切開され胎児を取り出されて解剖されました。薬物が体内でどのように移動するかをみるために、マウスやモルモットは放射性同位体で標識した薬物(つまり放射性物質)を投与され、殺され、体をスライスされました。化粧品の動物実験に関わっているある関係者が「もっとも過酷」という光感作性試験では「背中に試薬を塗られ、板に縛り付けられ、UVランプに晒されたモルモットたちは、熱さと痛みで逃げようとして『キュー、キュー』と泣き叫び、失禁し、脱糞する。それが何度も何度も繰り返される」と言います。どの実験でも、実験中に死なずに生き延びたとしても、実験が終われば、すべて殺され、解剖され、廃棄されるのです。
「白斑はできない」モルモットで実験していた!
安全性試験以外にも、効能効果を示すために動物が使われましたが(表3参照)、今回問題となっている「白斑」については、モルモットを使って「白斑ができないこと」の確認試験も行っていたのです。前出の関係者が「もっとも過酷」といった光感作性試験の工程と同じように、背中の毛を刈られたモルモットは、8日間毎日来る日も来る日もUVランプ照射に耐え、毛を刈った部分に1日1回、28日間続けて高濃度の薬物を繰り返し塗りこまれた後、再び6日間連続でUVランプ照射されました。この申請に至る前に、別のモルモットたちが同じ実験の犠牲になったことは言うまでもありません。
📋 表1 カネボウ化粧品によるロドデノールの有用性(効能効果)試験
原因究明に、また動物実験を繰り返すのか?特別委員会に動物実験回避を要望
事故を受けて、7月17日に日本皮膚科学会内に「ロドデノール含有化粧品の安全性に関する特別委員会」(以下、特別委員会)が設置されましたが、JAVAでは「事故原因究明のためにあらたに動物実験が行われるのではないか?」との懸念から、特別委員会に対して、8月6日、「本件事故原因の調査・究明にあたって、あらたな動物実験を行わない」よう、強く要望しました。しかしながら、8月22日、その要望に対する特別委員会からの回答は「原因の調査、究明及び治療法の確定に際し、患者様の臨床情報・血液検査・組織検査・パッチテスト等では得られない部分については、マウスを使用することも検討している」というものでした。
さらに、10月11日には、特別委員会の「現時点では医学的に因果関係を結論付けるのは難しい」という調査結果を踏まえて、「白斑についての臨床症状及び非臨床試験(細胞や動物による試験)データを踏まえた原因分析と医薬部外品の安全性に関するデータ収集・解析手法の検討を行う」として、厚生労働省内に研究班が発足しました。ここでまたあらたに動物実験が行われることになってしまったのです。
「人体への安全性を担保しない」動物実験からの脱却を
このような残酷な動物実験を行い、それらによって安全と判断されてしまったがために市場に出て事故を引き起こしたカネボウの化粧品。動物と人間との間の「種差」、種による違いは昔から指摘されてきたことですが、今回の白斑事故によって「動物実験は人体への安全性を担保するものではない」ことが、改めて証明されました。この事件の背景には、カネボウという会社のずさんな危機管理対応や、PMDAの審査体制の問題のほか、効能効果をうたえる「医薬部外品」の存在は企業を利するだけで消費者の利益に結びついていないのではないか、という疑問も浮かび上がりますが、それ以前に、動物実験に基づいた安全性試験のあり方を見直さなければならないのではないでしょうか。「動物実験で大丈夫だったから安全」という考え方に頼っている限り、こういった被害、薬害はなくならず、今後も続いていくでしょう。動物保護という観点からだけでなく、消費者保護という観点からも、試験する側の「産」、審査する行政当局「官」、新たな試験を開発していく「学」が一体となって、「動物実験」という悪しき制度からの脱却が必要なのです。
動物も人間も軽視するカネボウ・花王
日に日に被害が広がっているにもかかわらず、カネボウが11月から新たな美白化粧品の発売を検討していたことが一部雑誌により報道され、その後「時期尚早」として取りやめていたことが分かりました。そもそもカネボウは、2004年の巨額粉飾決算事件で整理となったところ2006年化粧品部門が花王に買収され100%子会社となって現在に至りますが、今回の事件を受けて、2014年7月より、研究・生産部門が親会社の花王に統合され一本化されることになりました。花王と言えば2009年、トクホ(特定保健用食品)の「エコナクッキングオイル」に発がん性物質が含まれているとして回収騒動を起こした際、1日にヒトが摂取する量の4,600倍という高濃度の化学物質をマウスに投与する動物実験を行ったニュースを覚えている方も多いと思います。花王もカネボウも、2013年3月にEUが化粧品の動物実験を最終的に完全に禁止し、日本でも資生堂やマンダムが動物実験廃止を表明したあとも、動物実験をやめる気配はまったく見せていません。
動物実験に反対する消費者を無視し、廃止に向かう国際動向も一顧だにせず、動物実験にしがみついて新商品開発に執心し、自社の利益ばかりを追求した結果、動物だけでなく、人間をも傷つける――「企業の社会的責任(CSR)」「エシカル」が叫ばれるこの時代に、こんな企業が存在していることに、許しがたい憤りを覚えます。
動物のいのちと引換えの美白は必要か
動物実験ありきで安全性試験を規定してきた規制当局や、動物を犠牲にして商品開発にしのぎを削ってきた業界はもちろん変わっていくべきです。しかし、同時に変わらなければいけないのは消費者でもあります。「新成分」「新製品」との言葉は魅力的に聞こえるかもしれません。しかしその成分、その化粧品のために、何千匹もの動物たちが苦しめられて殺されていることを知っている人はどれくらいいるでしょうか。化粧品会社は「美」のイメージを死守するために、どれほど多くの動物を使ってどんな残酷な実験をしているかという情報を自ら公開することはありません。そのため、化粧品開発の裏側に動物の犠牲があるなどとは考えたこともない「知らない」人が大半を占めています。企業側は、そうした「知らない」消費者をターゲットにして、おびただしい数の動物たちを犠牲にしながら、血まなこになって新商品開発競争に全力を注いできたのです。しかしいまはインターネットというツールでいくらでも検索し、知り、拡散することができる時代。動物実験の実態を広め、「動物を犠牲にした美白などいらない」という毅然とした消費者の姿勢を、企業や社会に示していきましょう。
あなたの声を届けよう
「これ以上動物を犠牲にしないで!」「すぐに動物実験廃止を!」
■株式会社カネボウ化粧品
TEL 0120-137-411
メールフォームは こちら
■花王株式会社
TEL 0120-165-692など
FAX 03-5630-9380
メールフォームは こちら
「原因究明のために動物実験しないで!」
■ロドデノール含有化粧品の安全性に関する特別委員会
gakkai@dermatol.or.jp
FAX 03-3812-6790
■ロドデノール配合薬用化粧品による白斑症状の原因究明・再発防止に関する研究班
厚生労働省 医薬食品局 審査管理課 (直通TEL)03-3595-2431
医薬食品局 安全対策課 (直通TEL)03-3595-2435
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📋 表2 カネボウ化粧品によるロドデノールの安全性試験(成分)
注1:K166とは新有効成分「4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール」、いわゆる「ロドデノール」のこと。
注2:構造の一部を放射性同位元素で標識した薬物を動物に投与して、一定時間後に動物を安楽死させた後、動物を縦に切断して標本を作り、臓器等組織に取り込まれた放射性同位元素から放出される放射線で薬物の分布状況等を調べる方法。そのほか、採血した血液や、自然排泄された尿や糞から放射線量を測定する場合もある。
注3:〓は黒塗り部分を示す。
📋 表3 カネボウ化粧品によるロドデノールの安全性試験(完成品)
掲出する表はすべて財団法人医薬品医療機器総合機構のウェブサイトに掲載されている申請資料「カネボウ ホワイトニング エッセンスSに関する資料」の「ニ 安全性に関する資料」「ホ 効能効果に関する資料」より抜粋引用して作成した。
◆参考◆
「『カネボウ美白化粧品』、なぜか話題にされない”3つの重要な論点”」
2013/8/9 ブログ「郷原信郎が斬る」
「花王、カネボウを事実上吸収 研究・生産部門統合」
2013/10/8 日本経済新聞
「被害者の拡大が続く中でカネボウが美白化粧品を投入」
2013/10/15 ダイヤモンドオンライン
「カネボウ「美白」新商品の発売準備も時期尚早と中止」
2013/10/22 共同