飼い主が捜していた猫を行政が殺処分
札幌市、飼い主が捜していた猫を殺処分
-市は、所有者の確認方法などの改善策を打ち出す-
動物管理センターのずさんな対応のせいで、「飼い猫が行方不明になった」と届け出たのに、殺処分されてしまった・・・こんな悲惨な事件が、2013年5月、札幌で起きました。
JAVAは札幌市に対して、再発防止と、収容された動物にできるかぎり生かす機会を与えるよう、システム改善を働きかけました。
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事件の経緯
「首輪をしていたのに・・・飼い猫を誤って殺処分」「飼い猫を誤って殺処分 札幌市、首輪に気付かず」「<動物管理センター>飼い猫を誤って殺処分 札幌市」と報道各社の記事でご存知の方も多いでしょう。
JAVAは、札幌市に対して公開質問状を提出し、今回の経緯を確認するとともに、札幌市の引取りや所有者有無のチェックシステム等についての質問を行いました。
それに対する札幌市からの回答や、報道内容、札幌市動物管理センターから出された報道機関各社あての文書「飼い主のいる猫の致死処分事案について」をまとめると、経緯は次のとおりです。
- 5月31日、札幌南署から、その猫を「迷い猫」として、札幌市動物管理センター福移支所が引き取った。
- 警察からの書類(引き取り願い書)には首輪がついている旨が記載されていたが、センター側では、書類(預かりリスト)を作成しなかった。
- 預かりリストを作成しなかった理由は、引取り依頼のあった猫を警察から事前に聞いたサイズから子猫と判断し、子猫については野外にいる猫の出産がほとんどであり、飼い主の引取りを前提としていないため。
- センターの獣医師が伝染病有無など状態を確認しようとしたが、籠から出てこなかった。
- 「唸る」「前足を出す」といった威嚇行動があったため、その獣医師がケージの扉を少し開け、猫を正面から見ただけで「攻撃性があり、保護困難」と判断し、同日、炭酸ガスにて殺処分した(「札幌市動物管理センター収容動物等取扱要綱」では、成猫は原則4日(閉庁日除く)収容することになっているが、攻撃性があり、保護困難と判断した場合、即日殺処分できる)。
- 首輪が毛に隠れていて獣医師は気づかなかったが、殺処分直後、首輪に気づいた。
- その猫に対してはマイクロチップの読み取り作業も実施しなかった。気の荒い猫の場合、網の袋に移して読み取り作業を行うが、その猫はかなりの凶暴性を示し、体格も大きい猫で、獣医師1人では、袋への移し替えができないと判断してしまったため。
- 殺処分の約1時間後、飼い主から「飼っている猫が迷子になった」と連絡があったが、預かりリストを作成していなかったため、該当なしと回答した。
- 首輪の付いた猫を殺処分したと報告を受けた指導係長が、届け出のあった猫と特徴が同じであることに気づき、飼い主が判明。
猫を見る前に子猫と断定して、必要な書類を作成しなかったり、 恐怖で威嚇する猫を“大きな凶暴猫だから”と殺処分を即決してしまうなど、いい加減に扱っていて、その猫を助けよう、生かそうという姿勢がまったくないのです。
飼い主への返還と譲渡に全力をあげるのは義務
今回、猫が殺処分されてしまった大きな原因の一つが、獣医師による確認が、ケージの扉を少し開け、正面からのぞいて見ただけであり、それにより首輪を見落としたことにあったといえます。このようなずさんなチェックで終わらせるとは、職務怠慢の極みです。札幌市は「猫がかなりの凶暴性を見せたから」と、十分な確認をしなかった理由を述べていますが、知らない場所に連れてこられたなら、動物がパニックになり、身を守るために攻撃性を示すのは当たり前のことです。
「攻撃性があるから」という理由で、いい加減な確認作業だけで済まされ、ましてや即日殺処分を決めるとは、極めて安易な判断であると断じざるを得ません。
いかなる性格の犬猫であろうと、殺すことを優先するのではなく、あらゆる方法を用いて生かすよう、全力をあげるべきで、それが動物行政の務めです。
攻撃性のある犬猫には、気持ちが落ち着くよう安心できる環境に置いて、十分な期間を設けて、飼い主への返還や飼育希望者へ譲渡するよう最大限に努力しなければなりません。
「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」にもとづく「犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置」において、飼い主への返還に努めること、また飼い主が判明しない犬猫については、できるだけ生存の機会を与えるように努めることが規定されています。そして、2013年9月1日から施行されている改正動物愛護法には、これらは法律本文にも盛り込まれています。札幌市の対応はつまり、動物愛護法に反していると言っても過言ではないのです。
札幌市の再発防止・改善策
殺された命は戻りはしませんが、動物たちが二度と犠牲にならないように、JAVAは札幌市に対して、再発防止の徹底を求め、また攻撃性を見せている犬猫についても、できる限り生かすようなシステムに改善するよう強く求めました。そして、札幌市からは、今後の再発防止・改善策として、以下の回答がありました。
【「預かりリスト」の全件作成】
警察署からの引き取り依頼の際に、子猫・成猫の例外なく「預かりリスト」を作成するよう改めた。
【引き取った飼い主不明猫の確認体制の改善】
引き取った飼い主不明猫は動物管理センター(八軒:動物管理センターには八軒の他に福移支所があり、福移支所は収容・処分・火葬業務を担当)に収容し、2名以上の獣医師を含む複数の職員でリストの照合と併せて、首輪・マイクロチップの有無、感染症の有無、性別等、特徴の確認を行い、個体カルテ(病状の有無)へ記録する体制とした。
【動物の収容環境の改善】
- 収容した猫は成猫子猫を問わず動物管理センター(八軒)に収容し、環境に慣らす為、一晩以上の保管を原則とする。
- 攻撃的な行動を示す個体であっても、給餌時に馴致を試みるなど継続して観察を行う。
- 特に攻撃的な行動を示す個体は、獣医師及び作業管理者以外は謝絶とし、作業時以外は消灯する等、動物が安心できる環境を作る。
【慎重な致死処分判断の実施】
引き取った飼い主不明の猫については、収容時に攻撃的な行動が見られる個体でも、十分な経過観察を行ったうえで、処分の必要性について判断するよう改めた。また、処遇の決定を行うにあたり、複数の獣医師で個体を確認する体制とした。
【致死処分の意思決定の改善】
収容した動物の致死処分にあたり、処分伺いの様式を見直し、担当獣医師のみの判断ではなく、事前にセンター所長までの決裁を経た後に実施するよう改めた。
これに伴い、動物管理センターの業務マニュアルである「動物管理センター収容動物等取扱要綱」、「動物管理センター収容動物管理要領」、「動物管理センター収容動物譲渡要領」及び「動物管理センター収容施設等管理要領」を改正、施行。
札幌市については、まずはこれらの改善策がきちんと実施されるか、今後も注視していかなくてはなりません。そして、不十分な点については、さらなる改善を働きかけていくことも必要でしょう。
名古屋市でも同様の事件があった
2006年には、名古屋市でも同様の事件がありました。猫の名前は、ふうちゃん。行方不明になってしまったため、飼い主が名古屋市動物愛護センターに失踪届けを出しました。その2ヵ月後、保護した市民がセンターに連れていき、センターで収容されたにもかかわらず、殺処分されていたのです。
飼い主から相談をされたJAVAが調査した結果、センターが失踪届けをたった過去1月分しか検索しなかったことが最大の原因であることが判明しました。飼い主はその前月に届け出ていたため、検索から漏れたのです。JAVAでは名古屋市に対して、失踪動物保護管理システムの見直しを働きかけました。
地元自治体の動物行政に目を光らそう!
今回の札幌市の事件も、2006年に起きた名古屋市の事件も、どちらも飼い猫が殺処分になったことで自治体のシステムの問題が明らかになりましたが、問題のある自治体は他にも存在します。これ以上犠牲を出したくありません。今後、JAVAでは他の自治体に対しても徹底的に追及していくつもりですが、日ごろから、皆さんも地元の自治体の動物行政に目を光らせ、引取りや収容のシステムや、収容した動物の扱い(何日収容して、どういった基準で譲渡にまわしているか、など)を問い合わせたり、問題があったら改善を求めるなどして、殺処分ゼロ実現を目指していきましょう!
(JAVA NEWS No.91より)