動物の死体の払い下げを廃止させよう!

2013年12月18日

殺処分ゼロを阻害する死体の払い下げを廃止させよう!

自治体の動物管理センターなどの施設に収容された犬猫などの動物が、研究機関や大学などに実験用として譲渡される、「実験用払い下げ」。この長きにわたって行われてきた悪習は、1992年にJAVAが東京都に廃止させたのをきっかけに、平成17年度末をもって、自治体による生きた犬猫の払い下げが全廃となりました 。

しかし、私たちが自治体に求めているのは、単に生きた動物の払い下げに留まらず、放棄される動物、殺処分される動物をなくすことです。今も多くの犬猫たちが殺処分されており、私たちは一刻も早く「殺処分ゼロ」を実現させなければなりません。その「殺処分ゼロ」の妨げになっているのが、殺処分された犬猫の「死体の払い下げ」です。そのため、JAVAは生体の払い下げとともに、死体の払い下げについても廃止実現のために取り組んできました。

「死体なら、殺すわけではないので問題ないのでは?」「もう死んでいて痛みや苦しみを感じないのだから、実験などに利用しても良いのではないか?」「生きた動物が使われるのを減らすことができるのではないか?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
では、なぜJAVAが「死体の払い下げ」にも反対するのか。ここでは、その理由とこの「死体の払い下げ」の廃止に向けた最近の活動をご報告します。

「殺処分された動物の死体の払い下げ」にJAVAが反対する理由

たしかに、「死体の利用」であれば、その動物に痛み、苦しみ、恐怖を味わわせるといった問題はありません。また、たとえば生きた動物の実験の代わりとなり得るケースもあります。しかし、この動物たちは無責任な飼い主によって放棄され人間の都合で殺処分されたことを私たちは忘れてはなりませんし、まず、そのことを考えるべきです。
殺処分された動物の死体の利用には、次のような問題点があるのです。

殺処分を減らし、なくしていく動物行政への障害となる

日本では、年間約19万頭(環境省 平成23年度データ)もの犬や猫が、自治体の施設で殺処分されています。しかし、本来、殺処分はあってはならないものです。
自治体には、殺処分を減らし、なくしていくために、飼い犬猫を持ち込んできた飼い主に、新しい飼い主を探すよう促したり、不妊去勢手術の実施を啓発したりする責務があります。また、引き取ったとしても、新しい飼い主を探し、生きる機会を与えるようにしなければなりません。自治体によっては、努力しているところもありますが、実際は、持ち込んできた飼い主に何ら指導もせずに、さっさと引き取っていたり、収容した動物を譲渡していなかったりということも多々あり、殺処分中心の動物行政であることは否めません。このような状況において、殺処分した動物の死体が実験利用や経済利用されるシステムが許されてしまっていては、自治体の殺処分をなくそうという意欲がますます減退し、持ち込んできた飼い主への手間のかかる啓発や譲渡事業に対し、今以上に力を注がなくなってしまいます。そうなれば、今後永遠に、無責任な飼い主からの引取りと殺処分はなくならないでしょう。自治体の収容施設は、殺処分を繰り返し、その死体を供給するために作られた施設ではありません。自治体は本来の動物愛護業務に全力を注ぐべきなのです。

死体の払い下げを認めることは、無責任な飼い主を認めること

たとえば、医学研究や教育のために動物の死体の払い下げが必要というならば、その払い下げ動物を提供している、動物の飼育を途中放棄する無責任な飼い主も同じく必要ということになります。また、自治体の死体の払い下げを支持するということは、飼い主に見捨てられ、殺処分される動物が永久に存在することを求めているのと同じことです。それはまた、放棄した無責任な飼い主が、「人の役にたった」などと考え、放棄したことへの罪悪感を薄めることにもなります。これでは、繰り返し自治体に持ち込むような常習者をなくすことができないばかりか、国民の動物愛護意識を低下させてしまいます。行政や動物保護団体が引取りや殺処分を減少させようと懸命に取り組んでいるなか、無責任な飼い主の存在を維持させるような払い下げは断じて許されません。

「死体の払い下げ」と「献体システム」の違い

「死体」という点は同じでも、EMP(Educational Memorial Program教育メモリアルプログラム)のケースであれば、これまで述べたような問題は発生しないので、検討の余地はあるでしょう。EMPとは、「その動物が治療を施すことができず、そのまま生かしておくことの方が苦しむことになる重大な傷病を患い、獣医学的な判断と、心からその動物を思う飼い主による判断によって、苦痛のない方法で死に至った」、つまり、安楽死となった動物の遺体を、飼い主の承諾のもと、獣医学実習に利用する、いわゆる献体です。これは、人間の献体と同じシステムであると言えます。ただ一つ違うのは、その動物の意思は確認できないので、飼い主がその代理をしている点です。
EMPは、アメリカの7つの大学で実施されていますが、この場合、かかりつけの獣医師から今までのカルテを入手することが可能で、病歴などの情報が実習に大いに役立ちます。さらに、献体の場合、その動物の名前などもわかっていますので、飼い主に大切にされてきた動物、家族の一員だったという認識を学生が持つことで、遺体を丁重に扱います。
それに対し、殺処分された動物はその由来が不明で、どんな環境で暮らしてきたか、どのような病気を持っていたかなどが全くわからないのです。そして、「処分された犬猫」であれば、ミスしても「自治体にたくさんあるからまたもらえばいい」と命を軽んじたり、「不要とされた犬猫の死体を活用してやっている」といった死体をモノのように扱う感覚に陥ります。死体の払い下げは、将来は獣医師や医師という命に関わる職業に就くであろう学生たちの生命軽視にもつながる恐れがあります。

「死体の有効利用」があっては、殺処分はなくならない

そもそも、研究機関は自治体の動物行政に関わるべきではないのです。今までの生きた犬猫の払い下げのケースでは、「金銭の授受」という不透明なお金の出入りが実際にありました。死体の払い下げも、そういった問題に発展しかねません。
自治体に対しては、研究機関との癒着関係を断ち切り、動物愛護行政を貫き、専念することを私たちは訴えていかなければならず、それにはまず、私たちが「殺処分を必ずなくす」「殺処分ゼロは実現できる」という強い信念を持つことが重要です。

状況は全く異なりますが、たとえば、密猟されたゾウの象牙について考えてみてください。アフリカの国でゾウを殺し、象牙を獲っていた密猟者が摘発され、その象牙が山積みにされ、焼却される光景をご覧になったことはないでしょうか?高価な象牙を売却すれば国が潤うのは明らかであるにもかかわらず、あえて、それらを焼却処分するのはどうしてでしょうか?「もう殺されてしまったわけだから」「もったいないから」と考え、密猟で手に入れた象牙で国が利益を得てしまえば、誰も密猟をなくそうと努力しなくなってしまい、結果、密猟は永久になくならないのです。殺処分と密猟は、違うものではありますが、「なくすべきもの」という共通点があります。「密猟された象牙を売却し、利用してしまえばよい」という考え方は、「死体を払い下げて利用しよう」という考え方と同じなのです。

動物の死体の取扱いについては、昨年の動物の愛護及び管理に関する法律(以下、動物愛護法)の改正の際、国会でも議論され、衆参両議院の環境委員会決議において、「五 動物の死体については、我が国の伝統的な動物観や近年における動物愛護の精神の浸透を踏まえて取り扱うよう努めること。(以下省略)」と盛り込まれました。
昨今、動物霊園にお墓をつくる人、遺骨を自宅で大切に持ち続けている人が増え、さらには飼い主と動物が一緒に入れるお墓ができているなど、時代と人々の動物愛護意識の変化を考えても、動物の死体を丁重かつ畏敬の念をもって扱うべきであるのは言うまでもありません。
実際、殺処分は徐々にではあっても、減ってきています。そして、改正動物愛護法には、「引取りを行った犬又は猫について、殺処分がなくなることを目指して、所有者への返還もしくは、飼養を希望する者への譲渡に努める」旨が盛り込まれました。
一日も早く殺処分をゼロにするにはどうすべきかと考えた場合、殺処分された死体の払い下げを「死体なのだから良いだろう」と考えるのではなく、殺処分されたその動物は、どうやって、そうなったのか、その背景や経緯を深刻にとらえ、放棄した飼い主とその行為に批判の目を向け、否定しなければなりません。それと同時に、無責任な飼い主の行為によって生まれた、殺処分された動物の死体の有効利用にもNOと言う強い姿勢を持たなければなりません。無責任な飼い主の行為が元で生まれた死体を有効利用することは、その行為を容認することにもなるのです。
このような理由から、JAVAは殺処分された動物の死体の払い下げや有効利用に断固反対し、その廃止を目指しています。

払い下げ実施は3自治体
2自治体は廃止を決定、残る奈良県に廃止させよう!

「払い下げ」の根拠とは

「収容された生きた動物の払い下げ」、そして、「殺処分された動物の死体の払い下げ」。これらを自治体が実施する根拠となっているのが、動物愛護法にもとづく「犬及びねこの引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置」(以下、引取りの措置。見直しにより、2013年9月に「犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置」に改正)です。この措置に、これら払い下げが、収容した動物や殺処分した動物の死体の処分方法の一つとして認める記述があるのです。

生体の払い下げは、実際は廃止になっているもかかわらず、この記述は残っていました。昨年の動物愛護法の改正にともなって、引取りの措置の見直しも行われ、この「実験用払い下げ」の一文が削除されるという、JAVAの長年の働きかけが実りました。
一方、「死体の払い下げ」については、次のように引取りの措置に規定されています。

第5 死体の処理
「動物の死体は、専用の処理施設を設けている場合には当該施設において、専用の処理施設が設けられていない場合には廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)の定めるところにより、処理すること。ただし、化製その他の経済的利用に供しようとする者へ払い下げる場合は、この限りでない。

JAVAは、この下線部分を削除することで、死体の二次的利用、有効活用を廃止させるよう、環境省に強く求めてきました。

JAVAの調査で、死体の払い下げ実施は3自治体と判明
鳥取県と横浜市はJAVAの働きかけで廃止を決定!

環境省における、この引取りの措置の見直しの審議を行う、昨年5月17日の中央環境審議会動物愛護部会のなかで、委員から、「死体の払い下げについて削除しないのは、まだ払い下げがあるからか?」との質問があり、田邉動物愛護室長より「死体の払い下げの現状が確認できていない。調査して確認できたら、修正したい」との答弁がなされました。この答弁はつまり、引取りの措置から死体の払い下げの記述を削除するには、まず、死体の払い下げの実態の把握が先決ということです。
そこでJAVAは、この部会直後、5月~6月にかけて、犬猫の引取り業務を行っている全国の都道府県・指定都市・中核市全109自治体に対して、死体の払い下げの有無の緊急調査を行いました。その結果、下図のとおり払い下げを行っているのは全国109自治体中、横浜市、鳥取県、奈良県の3自治体のみと判明しました。その後、鳥取県と横浜市はJAVAの働きかけにより、払い下げを廃止し、残るは奈良県のみとなりました。

死体の払い下げを実施していると回答した自治体とその内容

自治体名 死体の利用目的 金額 廃止予定  廃止しない理由
横浜市 教育・試験研究 無料 依頼に応じて対応
鳥取県 教育・試験研究 無料 社会的状況を考慮し必要に応じて検討
奈良県 三味線 無料 伝統的な技術・技能であって、文化財保存のために欠くことのできないものとして本県が選定した三味線皮製作技術の保存に必要であるから。

環境省は、払い下げ実施自治体がある以上、措置は変えない消極的姿勢

注目すべきは、全国109自治体のうち、現在も死体の払い下げを行っているのが、奈良県のみという状況で、これはつまり、死体の払い下げは全国的に廃止されたも同然との現状を示すものです。すでに社会は生体の払い下げと同様に「死体の払い下げ」をも拒絶し、これに自治体も応じているということです。もはや「死体の払い下げ」を容認する規定を残す根拠や意義はないのです。
先に述べたとおり、「死体の払い下げ」にはいくつもの問題点があります。たった1自治体のために、この「死体の払い下げ」という悪習を認める記述を残すべきではありません。
JAVAは、環境省の動物愛護室長と室長補佐に面会し、直接、この調査結果を示したうえで、死体の払い下げの根拠となっている「ただし、化製その他の経済的利用に供しようとする者へ払い下げる場合は、この限りでない」という一文を削除することを求めました。またその旨のパブリックコメントも提出しました。
それに対して環境省は、「奈良県が払い下げをしていることは知っていたが、鳥取県と横浜市のことはJAVAの調査で初めて知った」とのことで、やはり実態すら把握していなかったのです。さらに、「払い下げている自治体が皆無であるなら別だが、動物愛護法における死体の扱いの定義もできていないのが現状である」として、死体の扱いについて示した条文の改正は時期尚早、今回は見送るという姿勢でした。
「すべての自治体で死体の払い下げが廃止されたなら、規定は削除する」というのは、それは単なる文言の直しであって、「改正」ではありません。動物愛護部会での審議やパブリックコメントなどを受けて、より良い「措置」にしようとするならば、たとえ払い下げを実施している自治体があろうと、良くないことはやめさせる「改正」をしなければなりません。しかし、結局、環境省は消極的な結論を下し、死体の払い下げに関する記述はそのまま残ってしまいました。

唯一、払い下げを続けている奈良県へ
皆さんから「廃止を!」の声を届けてください

環境省の姿勢から、死体の払い下げを日本からなくすためには、まず払い下げを実施している自治体をなくし、そして、根拠となっている引取りの措置の記述を削除する、という、生体の払い下げと同じ段取りで進めていかなくては難しいことがわかります。

残すは奈良県のみ、です。
奈良県は、「伝統技術の保存のため」として「奈良県選定保存技術者」である民間の業者に三味線用に払い下げを行っています。「奈良県選定保存技術者」はたった1人であり、つまり、その1人の技術者を優遇し、猫の死体を譲り渡しているのです。
行政の業務は本来、法律に基づく公正なものでなければなりませんが、払い下げに関する業務費用はすべて県民の税金で賄われており、1人の県民への不当な税金運用であるといえます。
それに加えて、県民から引き取った犬猫、捕獲した犬などは県有財産であり、それと同様に死体も県有財産であることから、それを特定の人物に譲り渡すということは、一部県民に対する不当な優遇でもあるのです。
長年、実施していた生体の払い下げに関連して、全国自治体の動物行政と民間の業者との間で様々な問題が発生しました。それは悪質なものでは金銭授受といった不正であったのです。動物行政の使命は払い下げる動物をなくすことです。払い下げ先の業者と密接な関係を続けるために払い下げ動物を確保することではありません。

JAVAは奈良県に対し、死体の払い下げをやめるよう求めましたが、「県では、平成7年に奈良県文化財保護条例に基づき、県選定保存技術(県内に存する伝統的な技術又は技能で文化財保存のために欠くことのできないもののうち県として保存の措置を講ずる必要があるもの)として、三味線皮製作技術者を認定しています。その文化財保存の重要性に鑑み、平成20年から猫の死体の払い下げに関して制度化しているものです。」と、「伝統」「文化」を理由にして廃止する気がまったくありません。
三味線には昔から犬や猫の皮が使用されていますが、国民の動物愛護意識が年々向上していることを考えても、飼い主に見捨てられ、殺処分された猫を三味線の皮に転用する事は時代に逆行しており、国民の理解を得ることはできません。

<奈良県>
県知事:荒井正吾
〒630-8501 奈良市登大路町30
TEL:0742-27-8327(県民相談広聴係)
FAX:0742-22-8653(県民相談広聴係)
Eメール:奈良県ホームページ・県政の窓(送信フォーム)

(JAVA NEWS No.91より)

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