日本動物実験代替法学会第27回大会報告
「過去からの脱却と未来に向けたキックオフ」
-日本動物実験代替法学会第27回大会報告-
2014年12月5日(金)~ 7日(日)/横浜国立大学
今大会は、改めて『動物実験代替法』というキーワードを社会に広く普及させるための第一ステップと位置づけ、「過去からの脱却と未来に向けたキックオフ」をテーマに開催されました。代替法の研究発表に加えて「生命倫理・研究倫理を考える」というシンポジウムや、実際に代替法を体験するという場も設けられました。
3日間の講演の中でいくつかをご紹介します。
代替法の社会的認知を
長らく資生堂という大企業の中で、動物実験代替法を研究してきた現横浜国立大学教授の板垣宏氏が大会長を務めた。「資生堂では、代替法にはもっと国の支援が必要だと感じていた。大学に籍を置き、学術研究や学生指導を行うようになると、代替法が日本学術振興会による助成事業の対象ではないことや、理工系学生にも浸透していないことを知り、まだまだ認知されていないことに改めて気づいた。代替法学会が発足した当時は、化粧品の研究が主だったが、最近は化学物質の毒性評価など難易度が高いものにシフトしている。しかしまだ発展途上であるのは、『動物実験代替法』というキーワードが社会に普及していないからだ。普及の一助となることを願い企画を立てた。」と、今大会への思いを大会長講演で述べた。
3次元組織モデルをいかに作るか
富山大学大学院理工学研究部の中村真人教授からは組織モデルに関する講演がされた。「生体の細胞は生体内から取り出され、培養皿におかれると機能を失い性質が変わる。それをなるべく抑え、生体に近い組織を作れば有効な研究サンプルになる。このような3次元組織モデルは非常に期待され、様々な開発がされてきたが、複雑な組織作製には限界があり、臓器に対しては有効なモデルは確立されていない。」ここで終わりであればガッカリだが、今はコンピュータと3Dプリンターを導入した研究を行っているそうだ。組織を再現するには、細胞構築だけではなく、細胞操作技術、培養技術、計測技術が必要になるとのこと。ここに工学の観点が生きてくるのだろう。期待したい。
中村氏の3次元組織モデルの話は、似て非なるものを含めれば、数年前から耳にすることがあった。2008年の代替法学会では「マイクロチップを用いた複合的バイオアッセイシステムの開発」という発表がされ、小さなマイクロチップの中に生体機能を再現して薬剤を評価する、という内容に、難解ながらも興奮して聴講したことが思い出される。
学会からは離れるが、2014年にハーバード大学のハミルトン氏が、「臓器チップ(organ-on-a-chip)」がもたらす未来」というプレゼンテーションを、有名なTEDカンファレンス(米国にて年一回開催)にて行い、大喝采を浴びた。プレゼンではワクワクする言葉が並んだ。「創薬の試験ツールは細胞培養と動物実験だが、細胞は培養の環境は好まず、動物実験では人体で何が起こるかわからないことがある」「細胞建築家になって体外で細胞にとって心地よい環境を作る、それが『臓器チップ』で、これらを流体的に結び付け様々な臓器チップをつなげて、いわゆる仮想人体を作ることができる」「すでにデジタル製造専門の企業と連携」などなど。
日本は遅れをとっているようだが、この分野の研究は世界中で進められていて、代替法としても有望株である。
創薬における生理学的薬物速度論モデル(PBPK model)への期待
2012年の代替法学会大会長だった独立行政法人理化学研究所の杉山雄一氏からは、「薬物体内動態の予測;動物実験代替法としてのin vitro試験に基づくモデリング&シミュレーションの利用」という講演がされた。杉山氏は薬物動態研究者の第一人者で、以前から「ヒトでの薬物動態を動物実験から予測するのは容易ではない」としていたが、今回も「ヒトの生物学適用性予測は動物実験からは不可能。人のことは人でなければ分からない。」と明言した。数理モデル構築に必要となる生理解剖学的なパラメータの変化については、十分な情報が集まっていて、近年FDA(米国食品医薬品局)が中心となり、PBPKmodelによる薬物動態予測を臨床試験の必要性の判断、投与量の設定に活かそうという動きがあるそうだ。日本でもぜひ進めてほしい分野である。
実験動物で笑いを取る研究者も
実験動物学会と共催のシンポジウム「動物実験における3Rsの実践と課題」の中では、筑波大学の三輪佳宏氏から「近赤外線非侵襲蛍光イメージング技術の開発と応用」について発表された。「非侵襲」とは『生体を傷つけない』という意味で、細胞レベルの体内での動きを、近赤外光を使って解析するもの。MRIのようなものを想像するとわかりやすい。発表者が、研究に使うヘアレスマウスの毛の抜け方が面白いと揶揄し、「その顔がミッキーマウスに似ているのだが、本来マウスの耳の色は肌色。ミッキーマウスは黒だけど、本当は肌色でなきゃいけないですね」などと会場の笑いをとったり、蛍光物質を含まない餌の選定に苦労したというエピソードの中で「ある餌を与えたらどんどん体重が減ってきて死んじゃった!」など、終始生命を軽んじるトーンに強い嫌悪感を覚えた。講演後の質疑で「餌の選定のために体重減少で殺してしまうとはあまりに酷い。また、実験動物で笑いを取るようなやり方には憤りを感じる。意識を変えてもらいたい」と抗議した。
動物の犠牲がない科学を求める広告を掲載
毎年、大会参加者には要旨集が配布される。会場案内から日程、各研究の概要等が掲載され200ページ近い。3次元培養皮膚モデルの販売会社や、代替試験の受託企業などの広告も入る。今回、JAVAはシンポジウムへ登壇することもあり、動物保護団体の存在感を示すと共に、研究者に対して動物実験のない人道的科学を求めていることを表明する広告をうった。動物実験に反対する人々や団体は動物さえよければいいと、研究者からは思われている節がある。そうではなく、消費者や患者や色々な立場の人が、動物を含めた命の犠牲のない科学を求めているということを、科学界に発信しつづけていく必要があるからだ。
まとめ
今大会長も述べているように、「動物実験代替法」は、市民にも、マスコミにも、学術研究界にもまだまだ浸透していない。私たちJAVAは、世間の関心が向かう後押しをもっとしなければならない。そして代替法学会には、代替法が広がらない要因を解析すると同時に、大会テーマ「過去からの脱却と未来に向けたキックオフ」とした以上、対策を実行に移すキックオフとすることを強く望む。