福島県&二本松市の不適切な犬猫引取り問題
JAVAの指摘で改善される
福島県と同県二本松市において、長年にわたり不適切な犬猫の引取りが行われていた問題。地元の方からの通報で発覚してから、JAVAは約4年にわたり地道に県と市に働きかけを続けた結果、迷い犬猫の飼い主への返還に重要ないくつもの改善を実現させました。
=========== 経緯 ============
二本松市在住のSさんは、猫の「にぃ」を東日本大震災で被災した犬猫を保護する団体から引き取り、子どものように可愛がっていた。ところが2013年5月18日、室内で飼われていた「にぃ」は誤って外に出て迷子になってしまった。Sさんはすぐに捜しまわり、福島県県北保健福祉事務所※、二本松市生活環境課、二本松警察署と、考えられる限りの関係機関に行方不明の届出をした。
その後、「にぃ」の可能性のある猫(以下、猫A)が市民によって保護され、弱っていたため動物病院に連れて行かれ、そこで「猫エイズ」と診断される。そして獣医師の指示により袋に入れられて二本松市役所に持ち込まれた。
ちなみに福島県では、犬猫の引取りや収容、殺処分などは県の業務であるが、二本松市役所は引取り業務の一部について協力をしていて、所有者以外からの引取りを行っている。
二本松市が袋の中の猫を確認していたら、「にぃ」かどうか判断でき、「にぃ」であったならSさんの元に戻れたはずだった。しかし、市はあろうことか猫を見ることも触ることもせずに県北保健福祉事務所に移送してしまった。
そして、なんと県北保健福祉事務所でも袋の中の猫を確認せず、さらに収容した所有者不明の犬猫の情報は2日間公示すべきであるにもかかわらず、公示をせずに、翌日、炭酸ガス(CO2)で殺処分した。
Sさんは毎日のように市や県に問い合わせをしていたが、5月24日、「にぃ」かもしれない猫が殺処分されたことを県から知らされた。「死体でも返してほしい」と死体の確認と返還を求めて県北保健福祉事務所に出向いたが、見せることすら拒否され、後日、殺処分された日に焼却されていたことが判明。それまでの県と市の対応に疑問をもったSさんは、公文書開示請求を行うなどして調査を始めた。
Sさんの疑念は大きくなり、「県や市の対応は問題があるのではないか。そのためにたくさんの犬猫が飼い主の元に帰れず、殺処分されたのではないか」とJAVAに相談。調査の結果、Sさんの指摘通り、JAVAも多くの問題があると判断。その後、Sさんと協力しながら、福島県知事と二本松市長に対して犬猫の引取り業務や収容した動物の取扱いについての違法性等を指摘し、徹底した改善と改革を求める活動を続けてきた。
※福島県動物愛護センターが開所したことにより、県北保健福祉事務所で行われていた引取り業務は、2017年4月1日より原則、同センターに移った。
動物愛護法における引取りの規程
「動物の愛護及び管理に関する法律」と同法に基づく「犬及びねこの引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置」(以下、引取りの措置)において、引取り業務や引き取った犬猫の取扱いについて、自治体がどのように対処すべきかが記されています。例えば所有者不明の犬猫の場合、「拾得時の情報やその動物の特徴を台帳に記録し、公示すること」「マイクロチップ等を確認すること」「必要な治療を行うこと」「適正な施設と方法で保管すること」「殺処分がなくなることを目指して、インターネット等を活用して所有者の発見に努めたり、飼養希望者を募集し生存の機会を与える」などです。
次の二本松市や福島県の引取りの実態は、すべてこの引取りの措置に反したものでした。
二本松市と福島県の問題ある引取り業務の数々
≪市の問題点1≫ 飼い主からの届出の記録台帳がない
驚くべきことに、2013年5月まで、二本松市には飼い主からの行方不明の届出を記録した台帳がなかったのです。市民からの行方不明になったとの届出を受けておいて、それを記録・保管しておかないというのは「引取りの措置」に反するだけでなく、市を信じて届け出た市民に対する裏切り行為ともいえるのです。他の自治体でこのような例は聞いたことがありません。
二本松市には東日本大震災で飼い犬猫とはぐれてしまった多くの市民から届出が寄せられているはずです。それらの情報も保管されておらず、それによって多くの被災犬猫が飼い主のもとに帰れなくなった可能性は高いと言えます。
JAVAの働きかけにより改善された点
- 「保護・迷子犬・猫受付簿(聞き取り簿)」で聞き取りを記録し、「保護犬(猫・動物)管理台帳」「迷子犬(猫・動物)管理台帳」(ともにエクセル)にて一元管理する。届出者に対しては県北保健福祉事務所と二本松警察署にも連絡するよう伝える。
- 文書保存期間が5年のため、5年前の届出から照合できるようにする。(県は行方不明届出文書の保存期間である3年前から照合できるように改善した)
≪市の問題点2≫ 収容状態が劣悪である
市の説明によると、「『所有者不明の犬・ねこの引き取り申請書』を提出すると県がその動物を引き取りに来るが、多くの地域を担当しているので、すぐに来るとは限らず、数日、市役所で保護しておくこともある。その場合、倉庫の中に檻があるので、そこに水や餌を入れて保管しておく」とのことでした。
真冬、真夏の倉庫の中は寒さや暑さが厳しいことが容易に想像できます。実際、その倉庫に行ったことのある市の関係者の方は、11月の寒い日に、遺棄された時のままのダンボールに入れられた4匹の子猫がいて、1匹はすでに死んでいたのを見たとのことです。 そのような環境下に動物を置いておくことは劣悪飼育、動物虐待に他なりません。ましてや子犬子猫や負傷動物であった場合、数日もそのような状況に置いておけば、死に至るのも当然です。
JAVAの働きかけにより改善された点
- 給餌は最低1日2回、水は常時飲めるようにする。
- 犬猫を別スペースに置くなど、ストレス軽減の工夫をする。
- 犬は適宜散歩させる。
- 暑い時は扇風機、寒い時は毛布を設置。(JAVAは冷暖房の設置を求めていたが、そこは実現していない)
≪県の問題点≫ 飼い主からの届出の記録がずさん
飼い主からの行方不明になった犬猫についての届出を記録する「行方不明犬(ねこ)届出一覧」ですが、この書面への職員による情報の記入が極めていい加減です(下がその写し)。
- 受付者名欄が「下」「片」「た」のように、姓すらまともに記入していないケースがいくつもある。
- 「登録情報」「台帳の有無」「マイクロチップ」の欄には何も記載されておらず、さらに「処理状況」も無記入が多い。
- Sさんが届け出た「にぃ」については、体重を「2.7~2.8㎏」と伝えたにもかかわらず、「7~8㎏」となっており、さらに「譲り受けた猫」なのに「かりた猫」となっている。Sさんは同様の内容を二本松市にも伝えているが、二本松市の報告書には間違いなく記録されており、県北保健福祉事務所の職員の聞き取りミスもしくは記載ミスであることは明らかである。
迷い犬猫が県民によって保護されたり、保健福祉事務所に収容された場合、それら犬猫の特徴と飼い主からの届出の情報を照合するのに不可欠なのがこの「行方不明犬(ねこ)届出一覧」です。つまり飼い主と迷い犬猫をつなげる唯一の手がかりとなるわけで、迷い犬猫たちにとっては命綱ともいえる大切な書類です。それにもかかわらず、いい加減な記入をしているばかりか、設定されている項目すら届け出てきた飼い主から聞き取っていないとは、到底許されることではありません。できる限り詳細を聞き取り、間違いなく記録するのは行政の当然の責務であり、このように届出に対する対応がずさんであるのは、できる限り飼い主へ返還しよう、1頭でも殺処分を減らそうという意識が欠落していることが原因と言わざるを得ません。
JAVAの働きかけにより改善された点
- 「行方不明犬(ねこ)届出一覧」は犬と猫を別々に記載することとし、記載する欄を広くし、届出情報を記録しやすくする。
- 後から誰が見ても分かるように、丁寧かつ正確に記録するように努める。
≪市と県の問題点1≫ 引き取った猫を見ることもせずに殺処分
保護した市民が袋に入れて持ち込んだ猫Aを市が見て確認していないことについては、市の報告書に「袋に入れられてきた。そのまま県北保健福祉事務所に引き取ってもらった」とあることから明らかです。さらにSさんは殺処分された猫が「にぃ」であったかを確認するために訪れた県北保健福祉事務所で、「(保護した市民が連れて行った動物病院の)獣医の指示で、エイズで衰弱していたので袋に入れたまま殺処分した。中を見ていないのでどれがSさんの猫の死体だかわからない」との説明を受けており、県も見て確認していないことがわかります。 また「所有者不明の犬・ねこの引き取り申請書」と「引取り収容犬・ねこ台帳」に、猫Aについて記載されていますが、ともに毛色欄も性別欄も空白となっていることからも、市や県北保健福祉事務所の職員が猫Aを見ていないのは明らかであり、JAVAの追及に対し、市も県も猫Aの状態を確認していないことを認めました。 一方で、猫Aを見ていないにもかかわらず、種類「雑種」、体格「中」といったことが記載されています。それは持ち込んだ市民の申告を鵜呑みにして、適当に記入したからに他なりません。
猫Aの特徴を確認しなければ、Sさんをはじめとした飼い主から出されている届出と照合できるはずはなく、市も県は、照合は行っていないと断定できます。 さらに「猫を見ていない」ということは、当然、首輪等の所有者明示の有無の確認やマイクロチップの読み取りも行っていないことになります。これについても市も県もJAVAに対して認めました。
袋に入れられたまま持ち込まれた猫Aを見ることなく市は県に渡し、県はそのまま殺処分したのです。その理由について、市も県も「(診断した動物病院の獣医師から)エイズと言われたから」と説明しています。 猫エイズは、他の猫には唾液や血液を介して感染するものであり、空気感染などはしないこと、ましてや人間に感染しないことは、一般の飼い主でも知っていることです。引取り業務を担う職員が知らないということはあり得ません。エイズを理由に袋の中の猫Aを確認すらしないとは言語道断です。
JAVAの働きかけにより改善された点
[市]
- 基本的には持ち込まれた動物を必ず確認するが、危害を受ける恐れ、逸走・脱走の恐れ、感染症拡大の恐れなどにより、どうしても市で対応困難と思われる場合は、随時、状況を判断し、適切な対応は県に委ねる。
[県]
- 猫を確認しなかったことは不適切であったことから、今後は必ず確認する。
- 感染症の疑いや攻撃性などがあっても、標準的予防策徹底のうえ、例外なく、動物の状態・特徴の確認、(首輪やマイクロチップなどの)所有明示の有無の確認を獣医師を含めた複数の職員で行う。
≪市と県の問題点2≫ 「飼い主の元に返そう」という気のない対応
その後、市から「にぃ」の可能性があった猫Aがすでに殺処分されたことを聞かされたSさんが「届け出ていたのになぜ連絡をくれなかったのか?」と問うたのに対し、「保護された場所がSさんの家から離れていたから」と答えています。
迷い猫が数キロ、数十キロ離れた場所で発見された、行方不明になってから数ヶ月、数年後に発見され、無事に飼い主の元に帰ることができた、というケースも報告されています。Sさんの自宅とその猫Aが保護された場所は8キロほどの距離であり、猫は田畑を抜けていけることを考えたら十分に行くことが可能なことから、Sさんの届出を除外する理由にはなりません。
二本松市の報告書によると、Sさんから「猫Aが持ち込まれたときに連絡をくれていたら」と指摘されたことに対して、「Sさんからもらっていた情報と合わなかったので連絡はしなかったと」と説明しています。「Sさんからもらっていた情報と合わない」とはどう合わなかったというのでしょうか。猫を袋に入れたままにして猫を見てもいないのにSさんからの情報と照合できるはずはありません。仮に見ていたとしても、外見は放浪により痩せたり、汚れたりして大きく変わることがあります。猫であり、性別が同じであるなら、当然、知らせるべきです。
市は、「Sさんからもらっていた情報と合わなかった」と言いながら、一方では、Sさんに「尻尾が長く、茶色が多い三毛猫と保護した人から聞いて、Sさんの条件に似ているとは思ったが、エイズだと言われたので県北保健福祉事務所に送った」と説明をしています。これは、極めて矛盾した説明であり、無責任としか言いようがありません。市や県が猫Aが持ち込まれた際にきちんと猫を確認し、届出と照合するという当たり前の対応をしていれば、猫Aが、「にぃ」であれば殺処分を免れ、無事、Sさんのもとに戻ることができたのです。
のちに市が市役所に持ち込んだ人から聞き取った発見時期の情報によって、猫Aは「にぃ」ではなかったことがわかりました。例え市や県がそのように判断したとしても、すでに猫Aは殺されてしまったわけですから、猫Aが「にぃ」でなかったとたやすく認めるわけにはいきません。仮に「にぃ」ではなかったとしても、猫Aにも飼い主がいて、その飼い主が捜していた猫だったかもしれず、県は所有者のいる猫を殺処分した可能性があるのです。
JAVAの働きかけにより改善された点
[市]
- JAVAの指摘のとおり、条件によっては通常考えられる行動範囲を超えて移動する可能性もあり得る。
- 同一個体の可能性があると判断した場合には飼い主に連絡する。年齢や毛色で可能性を排除しないように十分注意して確認する。
[県]
- わずかでも特徴が似ていたら飼い主に確認にくるよう連絡をする。
- 照合の結果、特徴が異なっていても種が同じであるなら、保護収容場所が届出飼い主の住所地に近い場合、念のために連絡する。
その他の改善
上記以外にも福島県は次のような改善も行いました。
- 県や市町村のウェブサイトの他、市町村の広報誌やチラシを回覧するなど広報に努め、最寄りの保健所、市町村役場、警察等へ問い合わせれば、飼い犬猫の迷子情報が得られることを周知していく。
- 市町村に行方不明の届出があった場合には、市町村に収容動物情報の確認は県のウェブサイトのチェックとともに電話でも確認させる、また飼い主に直接、県に問い合わせることを周知する。
- 飼い主からの届出情報について、隣接する保健所間や市町村での情報共有に努める。
- 「飼い犬・ねこの引取り申請書」「所有者不明の犬・ねこの引取り申請書」ともに、県内すべての引取り場所で様式を統一する。
- 炭酸ガスによる「殺処分」を「安楽死処分」とまるで苦しまずに死に至ったかのような誤解を与える表現をしていたのを「殺処分」と改める。
- 収容した生体の写真は撮影しているが、収容直後死亡したものについても死体の写真を撮影するようにする。
- 治療を加えても生存することができず、または治療することがかえって苦痛を与え、若しくは長引かせる結果になる場合等、死期を早めることが適当であると獣医師等が判断した場合を除き、負傷動物に必要に応じて実施可能な治療を行う。
小さな改善でも殺処分減少につながる
Sさんは「にぃ」のことを心配し、今も捜しておられます。そのような中で、Sさんは飼い主の元に帰れないでいる他の犬猫のことも考え、二本松市と福島県の殺処分が少しでも減るようにと一緒に取り組んでくださいました。
二本松市はいまだに飼い主がいない猫の不妊去勢手術の助成金制度を設ける考えがありません。また、多くの自治体が苦痛の少ない麻酔薬を用いての方法をとっているのに対し、福島県は依然として炭酸ガスで殺処分を行っているなど、まだまだ課題は残っています。それらについては今後も働きかけが必要です。それを思うと、今回、JAVAが福島県と二本松市に対して行った活動で実現した改善は小さなこと、細かいこととうつるかもしれません。しかしこういった当たり前の業務をきちんと行い、ちょっとした工夫・努力をすることが、迷い犬猫の返還につながり、殺処分を減らすことにつながると考えています。