スエズ運河封鎖により、海上の家畜の苦境が明るみに
2021年3月、スエズ運河でエバーギブン(世界最大級の貨物船)が座礁、斜めになって運河を塞ぎ完全に通航を遮断した。それにより、数十万頭の動物を輸送する少なくとも20隻の船が数日間、スエズ運河およびその周辺で立ち往生した。生きた動物の輸送には危険がともなう。それが船による長距離輸送となれば、動物に必要な物資や飼料も運ばなくてはならず、いっそう危険度は増す。座礁したエバーギブンがすぐには動けないことが明らかになると、立ち往生する船にいる動物たちの心身の状態への懸念がにわかに高まった。
多くの国で、船上の動物のための福祉の最低基準を定めた規則が制定されてはいるものの、動物福祉が損なわれる状況はまだまだ多く、船上の家畜たちはすし詰め状態であったり、暑さや寒さによるストレスにさらされていたり、新鮮な空気の不足や長期間の移動などに苦しめられていたりする。こうした状態はどれも、病気や苦痛や死に見舞われる確率を上昇させる。
報告によれば、13隻の家畜運搬船(約13万頭の羊を運んでいた)がルーマニアから出航した。EUの規則では、動物を運搬する輸送船は遅延に備え、航海中に必要となる飼料の25%を余分に積むよう規定されているものの、飼料等はすぐになくなる恐れがある。例を挙げると、そのルーマニアの船のうち1隻は、ヨルダンに3月23日に到着する予定で3月16日に出航したと報告されているが、この封鎖による遅延で到着日が4月1日以降となった。積んでいた予備物資が25%分だとすれば、たとえ4月1日に到着したとしても9日遅れとなり、すでに遅延2日目で、羊は飼料不足に陥っていただろう。
これもまた最近の出来事だが、スペイン当局は2月下旬、病気の疑いがあるとして、2か月もの間、地中海をさまよった船の劣悪な環境下で衰弱した850頭以上の牛の安楽死を命じた。
長年、生きた動物の海外輸送の禁止を求める声は挙がっていたが、こうした大規模な惨事が起こったためにその要求はいっそう高まっている。貨物船による生きた動物の輸送禁止を支持する人たちは、人工授精や冷凍、空輸などの科学の進歩により、船による動物輸送は不必要な危険行為となったと主張している。
こうした残酷な行為を終わらせてほしいという声を受け、ニュージーランドは先ごろ動物福祉の観点から、生きた牛の海上輸出を禁止することを発表した(2023年より施行)。昨年、ニュージーランドは、5,800頭の牛および40人の乗員が死亡した大事故が起こった際には、そのような家畜の輸出を一時中止していた。また、英国は、食肉用および肥育用の生きた動物の輸出をまもなく禁止すると述べており、オーストラリア(食肉用の生きた動物の世界最大の輸出国)では、海上の動物福祉を向上するための改革(北半球が夏の間は中東への輸送禁止など)が始まっている。だたし、この改革でも恒久的な禁止とはなっていない。
このスエズ運河の事故によって、どれほどの動物が苦しみ、死亡したのか、その正確な数はわかっていない。だが、危険があるにもかかわらず、利益が出るかぎり生きた動物の輸出は大規模に継続されるようだ。この残念な現実を認識し、AWI*は米国からの輸出を監視し、こうした運命をしいられる動物の福祉を向上させるための改革を模索している―この慣習の完全禁止を主張しつづけながら。
- * Animal Welfare Institute:動物福祉団体/米国
Suez Canal Blockage Highlights Plight of Farm Animals at Sea (AWI)