女子栄養大学・短期大学、ラットを太らせ解剖する実習を廃止!
2022年春、女子栄養大学短期大学部の学生の方々から、「ラットをわざと太らせて、そのあと解剖して殺す実習が1年生の後期にある」「必須の実習であり、残酷で精神的に参ってしまった学生もいる」「入学説明書にも入学説明会の際にも動物を殺す実習があるとの説明がなかった。このような実習があるなら入学などしなかった」「栄養士になるのに、なぜ動物を殺さないといけないのか。この実習をなくしてほしい」といった内部告発や相談がJAVAにありました。
4年制大学の実践栄養学科のウェブサイトには「グループでラットを飼育し、たんぱく質栄養が発育に及ぼす影響を考察します」と書かれており、女子栄養大学でも同様の実習が行われていることがわかりました。
この実習と大学の体制の問題点
この実習は、栄養価の異なる飼料を与え、その違いによる臓器への影響やラットの体の構造といったわかりきったことを学ばせる目的として、毎年のように繰り返し行われ、ラットの命を奪っています。女子栄養大学は本来ヒトの栄養学について学ばせる教育機関であり、この実験も人間の成長や臓器への影響を学ぶためのものであり、動物を用いて学ぶこと自体間違っているわけです。
このラットの解剖実習を含め、同大学で行われる動物実験はすべて「女子栄養大学及び女子栄養大学短期大学部動物実験管理規程」に則って行なわれ、事前に動物実験倫理委員会の審議を経て、学長の承認を受けることになっています。当時の同規程には「動物実験等の実施に当たっては、国際的な動物実験等の理念である3R(Replacement: 代替法の利用、Reduction:必要最小数の動物の使用、Refinement:苦痛の軽減)を踏まえて 動物実験計画を立案し、動物実験等を適正に実施しなければならない」「代替法を考慮して、実験動物を適切に利用すること」と記されていました。それにもかかわらず、この大学では代替法への転換を行わないどころか、もとから動物実験計画書に代替法の検討について記入する欄もなく、まったく3Rの努力がみられませんでした。そのような実験が承認されていることは、この大学の動物実験倫理委員会が機能していない証拠と言えます。
大学への要望と最初の回答
JAVAは2022年6月、女子栄養大学・女子栄養大学短期大学部の学長に対して、解剖をはじめ動物を犠牲にする実習の問題点を指摘した上で、下記の事項を求める要望書を提出しました。
- 大学、短期大学ともに「ラットを太らせ、解剖する」実習を廃止すること。
- その他のカリキュラムで実施される動物を犠牲にする実験・実習を廃止すること。
同年8月、同大学から届いたJAVAからの要望に対する回答には、「動物を犠牲にする実験・実習を廃止する」とは記されていませんでした。
ただ、JAVAが指摘した動物実験計画書に代替法の検討について記入する欄がなかったり、代替法の検討プロセスが確認できないこと等改善すべき点は認め、「代替法の検討など、3Rの徹底が図られる仕組みに強化する」とありました。また、「動物実験による精神的苦痛等を訴える学生の声があったことについて、しっかり受け止める」「科学的・教育的観点、動物愛護の観点、安全確保の観点に配慮し、全学的に3Rを徹底するよう、取り組んでいく」とも回答してきました。
到底納得できない回答
しかしながら、これでは動物が実習の犠牲になり続けることに変わりはありませんし、納得できない点が多々あります。
まず、「科学的・教育的観点」については、当該実習は、すでにわかりきったことを再現する実習であり、過去の実習の録画映像等で学ぶことができます。
また、「動物愛護の観点」については、当該実習は、ラットに苦痛を与えた上でその命を奪うものであり、真っ向からそれに反することは明らかです。
そして、「安全確保の観点」から考えても、動物による咬傷や薬剤の危険性などがあり、動物を用いない方法のほうが優れています。
何より、同大学がしっかりと受け止めるとされた「動物実験による精神的苦痛等を訴える学生の声」に関しては、「ラットをわざと太らせて、そのあと解剖して殺す実習」をはじめ、動物を用いる実習を用いない方法に転換させれば、そういった精神的苦痛を受ける学生はいなくなるのです。
もし、大学が、動物実験による精神的苦痛等を訴える学生がいるという問題は、他の方法の選択肢を与えることで解決すると考えていたら、それは大きな間違いです。そういった学生の方々は、自身が動物を用いる実習を受けなければ良いと考えているのではなく、大学内で動物たちが実習によって苦しめられ、殺されているということに心を痛めているのです。つまりは、学生の方々の苦痛を取り除くためにできることは、動物を用いる実習を廃止する以外にないということです。
ラットの解剖の廃止が決定!
夏から冬の期間に、短期大学部1年生の全4クラスで「ラットを太らせ、解剖する」実習が実施され、JAVAはこれに強く抗議しました。そして、その後も廃止を働きかけ続けた結果、2023年7月、大学から「4月に『ラットを太らせ、解剖する実習』を廃止し、事前に撮影した動画を視聴する方法に切り替えた」という文書回答があったのです!
その他、次のような改善も行ったとの説明がありました。
- 学生への配慮として、解剖動画を観ることも負担を感じる学生には強制せず、文献で学ぶ方法で対応した。
- 2022年9月に「動物実験計画書」を見直し、代替法の検討プロセスについて確認を行う様式に変更。動物の苦痛の軽減や排除の方法等についても確認を行う形式に変更した。
- 2023年3月に、「動物実験管理規程」を見直し、基本原則に3Rに基づいた適正な実施に係る記述を丁寧に行うとともに、動物実験等の実施について、代替法を十分に検討することを明記し、3Rの徹底を図るための体制を整備した。
女子栄養大学と同大学短期大学部の動物実験がすべて廃止になったわけではありませんが、長年行われてきたラットを殺す実習がなくなったことは大きな一歩と言えます。地道ではありますが、これからも動物を犠牲にしない教育を普及させる活動を続けて参ります。