<外来生物法改正>「飼えなくなったアカミミガメは家の冷凍庫で殺処分を」環境省ウェブサイトから削除させよう!
昨年に改正された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(以下「外来生物法」)。この改正でミシシッピアカミミガメ(以下「アカミミガメ」)とアメリカザリガニは、輸入、販売、放出は禁止となりましたが、すでに非常に多くの数が飼育されていることから、「個人の飼育」や「個人間の無償譲渡」等は、当分の間認められる特例措置が今年6月1日から施行されています。
飼い主に殺処分を提案する環境省のウェブサイト
環境省は、このアカミミガメとアメリカザリガニの規制について国民に伝えるためのウェブサイトページ「2023年6月1日よりアカミミガメ・アメリカザリガニの規制が始まりました!」を作りました。それの「これから飼育したい方へ 飼う前によく考えよう!」という欄では、世話の大変さなどを説明してあり、安易な飼育防止に役立つと考えます。
ところが、このページではなんと、次のように飼いきれなくなった場合に家庭用冷凍庫で殺処分することが提案されているのです。
<環境省ウェブサイト「2023年6月1日よりアカミミガメ・アメリカザリガニの規制が始まりました!」より>
※下線はJAVAによる
■終生飼養ができず、譲渡し先も見つからない場合(アカミミガメ)
やむを得ない事情により終生飼養ができない場合で、上記の努力を最大限行っても譲渡し先が見つからなかった場合には、殺処分することもやむを得ません。そうしなくて良いように、最後まで責任をもって飼うこと、飼い始める前によく考えてから飼うことが大事です。
やむを得ずアカミミガメを殺処分しなければならない場合には、適切に処分できる者に依頼するといった対応により、薬殺や冷凍などのできる限り苦痛を与えない適切な方法で行ってください。冷凍については専用冷凍庫での実施が望ましいですが、やむを得ず家庭用冷凍庫で行う場合は、食材とカメが触れないようにし、厳重に包装ししっかり消毒を行うなど、食中毒に十分ご注意ください。
■終生飼養ができず、譲渡し先も見つからない場合(アメリカザリガニ)
終生飼養ができず、譲渡し先も見つからない場合は、殺処分することもやむを得ません。そうしなくて良いように、最後まで責任をもって飼うこと、飼い始める前によく考えてから飼うことが大事です。
アメリカザリガニの適切な殺処分方法としては冷凍等が挙げられます。冷凍については専用冷凍庫での実施が望ましいですが、やむを得ず家庭用冷凍庫で行う場合は、食材とザリガニが触れないようにし、厳重に包装ししっかり消毒を行うなど、食中毒に十分ご注意ください。
JAVAが再三、問題指摘をしてきた冷凍殺
冷凍殺(冷凍庫による低温殺)では、動物の体の組織に氷の結晶が形成され、痛みを引き起こす可能性があるとされており、また死に至るまで時間がかかることから、大変残酷な方法です。
WOAH(世界動物保健機関/旧OIE(国際獣疫事務局))の動物福祉規約「皮、肉、その他の製品のための爬虫類の殺害」についての動物福祉規約の中で、爬虫類を気絶させたり殺したりする際に不適切で許容されない方法の一つとして、「冷凍」が記されています。
しかし、環境省は、以前から環境省作成の「アカミミガメ防除の手引き」等で、野外で捕獲したアカミミガメの処分方法として、冷凍殺をするように言っています。これに対して、JAVAとこの問題に連携して取り組んでいるPEACEは繰り返し問題を指摘してきましたが、環境省は方針を変えていません。
環境省がこれまで示してきた冷凍殺はマイナス20℃以下の設定が可能な冷凍庫で行う方法ですが、今回、ウェブサイトに記載したのは家庭用冷凍庫での冷凍殺で、家庭用冷凍庫はマイナス18℃程度と、さらに温度が高いことから、より長時間苦しめることになってしまいます。 アメリカザリガニについても、冷凍殺は同様に残酷ですし、そもそも水分のないところに置き続けると呼吸ができなくなるので、水から出した状態のままにしておくことでも苦しませてしまいます。
家庭での殺処分に関しては、2022年5月10日の参議院環境委員会でも問題指摘がありました。これに対して山口壯大臣(当時)からは、「どうしても終生飼育もあるいは譲渡しもできない飼い主に対して、地方公共団体が引取りを行う場合の支援、あるいは環境省における相談窓口の設置などということで取りあえず対応」との答弁がありました。
ところが、この環境省のウェブサイトでは、地方公共団体による引き取りについての情報や「アメリカザリガニ・アカミミガメ相談ダイヤル」に相談するようにといった案内もなく、殺処分もやむを得ないとし、さらに家庭用冷凍庫での冷凍殺を教示するとは言語道断です。これでは飼い主たちは「環境省が紹介しているのだから、家の冷凍庫での殺処分は問題ない」と誤った認識をして、安易に殺処分の決断をしかねません。
できる限り苦痛のない殺処分方法
アカミミガメにとって、環境省が主張する方法が妥当であるのか、できる限り苦痛を与えない殺処分方法を獣医師に照会したところ、「水生動物用麻酔薬MS-222;Tricaine methanesulfonateを体腔内に注射して全身麻酔後、頸動脈切断によって失血させる。その前段階で吸入麻酔をかけ、体腔内に注射する痛みを防ぐことが望ましい」とのことでした。この水生動物用麻酔薬での全身麻酔後、頸動脈切断による失血殺という方法は、大学でも採られている方法です。
アメリカザリガニについても、麻酔薬などによる神経伝達回路の麻痺や細胞レベルでの鈍化をまず行った後に、“急速”に凍結するといった配慮が推奨されるべきとのことでした。しかし、環境省が挙げているマイナス20度の冷凍庫や家庭用冷凍庫では“急速”冷凍はできません。
そもそも、動物を致死させる行為は獣医療行為であり、こういったできる限り苦痛の少ない殺処分をするには、薬品を扱い、極めて専門的な知識と技術を要することから、獣医師のみが行う資格があることになります。素人の国民に殺処分をさせることは決して許されることではないのです。
ウェブサイトからの削除を大臣に要望
そこで、7月、JAVAとPEACEは次のことを求める要望書を環境大臣に提出しました。
【要望事項】
- ウェブサイトから、アカミミガメに関する殺処分もやむを得ないという記述や具体的な殺処分方法を削除すること。やむを得ない事情により終生飼養ができない場合で、どうしても譲渡し先が見つからなかった場合には、まず、「アメリカザリガニ・アカミミガメ相談ダイヤル」に相談するよう内容を改めること。
- 「アメリカザリガニ・アカミミガメ相談ダイヤル」に相談があった場合には、終生適正飼養や適正飼養が可能な人への譲渡ができるよう、そのための方法を最優先で助言をすること。その上でやむを得ず殺処分するしかないという場合には、動物病院にて麻酔薬での薬殺を依頼するよう教示すること。
- ウェブサイト以外にも同様の内容が書かれた物(例えば、ポスター等)がある場合、これに関しても1と2のとおり改めること。
- アメリカザリガニに関してもアカミミガメと同様の対処をすること。
JAVAが殺処分方法の要望をせざるを得ないわけ
アカミミガメとアメリカザリガニは特例で個人飼育と個人間の譲渡が認められているとはいえ、特に寿命が30年以上と長寿で、甲羅の長さが約30㎝まで大きくなるアカミミガメについては、終生飼育できない人も多くいると思われます。そうであっても、野外に逃がすことは違法ですし、自治体で引き取りをしているわけでもありません。また、寿命の長さや世話の大変さから、新しい飼い主をみつけようにも容易ではありません。そのような事情から、残念ながら最悪の結果である「殺処分」について想定をしておかなければなりません。
動物たちを守りたいと活動しているJAVAにとって、殺処分の方法を提案や要望をするということは本望ではなく、非常につらいことです。まず、私たちがすべきことは、安易な飼育を徹底的に止めさせることに違いはありませんが、すでに飼っていて、どうしても飼育を継続できなくなった場合においては、不本意ながら、せめて殺処分の際にできる限り苦痛の少ない方法でもって行わせなくてはならず、冷凍殺のような残酷な方法を環境省が紹介・推進するという間違った状況を変えなければならないのです。
環境省は殺処分の記述を削除せず
8月末、環境省から次のような内容の回答文書が届きました。
【要望事項1への回答】
- 要望を受けて、8月29日付けで「必要に応じてアメリカザリガニ・アカミミガメ相談ダイヤルにもご相談ください」との一文をウェブサイトに追記した。
- 殺処分もやむを得ないという記述や具体的な殺処分方法の記述は削除しない。
- 理由は、「譲渡し先が見つからなかった場合に、野外への放出をさせない」という観点、そして「飼育を安易に考えて、無責任に新たな飼育を開始する方を生まない」という観点から、「殺処分もやむを得ない」と伝えしていく必要があると考えているため。
【要望事2への回答】
- 相談ダイヤルに相談があった場合には、 「最後まで飼い続ける責任を持たなければならないこと」「どうしても飼い続けることができない場合は、他に最後まで適切に飼い続けてくれる方を探すこと」をまず相談者へ伝えて、引取り先を探す方法についても助言を行っている。
- そのうえで、殺処分するしかないという場合には、適切に処分できる者に依頼するといった対応により、麻酔薬による薬殺や冷凍などのできる限り苦痛を与えない適切な方法で行うよう伝えている。
- 麻酔薬による薬殺が個体に大きな苦痛を与えない方法として有用なものとは承知しているが、アカミミガメを扱う動物病院は限られていることや、扱っている場合でも薬殺の対応が可能とは限らないことから、方法を「動物病院における、麻酔薬による薬殺」に限定することは、現実的ではないと考えている。
- 現実的でない方法しか記載しないことにより、選択肢がなくなり野外へ放出をしてしまう飼養者が出てくるおそれがあること、変温動物である両生類・爬虫類については、冷却・冷凍による方法の妥当性を支持する知見も得られていることから、方法の一つとして挙げている。
【要望事項3への回答】
- チラシやポスターでは殺処分についての記載はない。
【要望事項4への回答】
- アメリカザリガニについても、アカミミガメについての【要望項目1への回答】と同様。
環境省にアクションを!
JAVAも不本意ながら殺処分を想定しておかなくてはいけないとは考えますが、だからといって、選択肢の一つとして殺処分をあえて提示したり、残酷な冷凍殺を家庭用冷凍庫で行う方法まで書く必要はありません。そして、言えることは、一般市民に冷凍殺を勧めた場合、市民は残酷な方法によって、自ら殺すことに拒否感を抱き、きっと野外に離してしまうことになるということです。それを最も懸念しているにもかかわらず、環境省は冷凍殺を推進しているとは全くもって愚策としか言いようがありません。
環境省は「冷却・冷凍による方法の妥当性を支持する知見も得られている」と以前から主張していますが、環境省がその知見として示している3本の論文について、JAVAが爬虫類に詳しい国内外の獣医師に見解を尋ねたところ、いずれの論文も最近わかってきた爬虫類の体温調節の仕組みやエネルギー伝達のことを無視していて非常におかしい論文であるとのことでした。
環境省からの回答は到底納得できるものではなく、JAVAはこれからも働きかけを続けていきますが、ぜひ皆さんからも環境省にご意見を届けてください。
環境省 自然環境局 野生生物課 外来生物対策室
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